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第8話
「ほら、お前もこっち来て座れ」
ライアルが一番奥の席に着く。由羅はライアルの向かい側に腰を下ろした。あまり近づかない方が香りに惑わされずに済むだろうと思ったのだ。
(それにしても……)
円卓の上をまじまじと眺める。食べかけとはいえ豪華な食事だ。見たことのないような贅沢な料理が当たり前のように並べられている。米、肉、魚、果物……それに細い紐状の――粉を練ったものだろうか――謎の食べ物もあった。
この国の人たちは、毎日こんな食事を採っているのだろうか。宴や祭りでもないのに随分と豊かである。
ライアルが透明な器に赤い液体を注ぎながら言った。
「さ、好きなもん食っていいぞ。うちの食事は基本バイキング形式だ。残ったら家畜にやるから心配ない」
「バイキング……?」
「ああ、好きなものを好きなだけ皿に盛って食べる食事形式だ。俺のお気に入りのステーキは全部食われちまったみたいだが、そこのつけ麺もオススメだぞ」
「は、はあ……」
赤い液体を飲みながら、骨付き肉にかぶり付くライアル。
由羅はもう一度目の前に並べられている料理を眺めた。正直あまり食欲はない。昨晩の夕餉から何も食べていないが、これだけ豪華な料理を見てもほとんど食指が動かなかった。
とはいえ、ここまで来て何も口にしないのでは間がもたない。
由羅は料理の中から食べられそうなものを選んで、自分の皿に取り分けた。紐状の食べ物――つけ麺とか言ったか――には手をつけなかった。
「いただきます……」
由羅は桃を一口齧 った。
だが桃の香りが口いっぱいに広がった瞬間、再び胸が焼けるような吐き気が襲ってきた。口に入れた果肉だけは無理矢理飲み込んだが、それすらも戻してしまいそうになり冷や汗をかいた。
「おい由羅、大丈夫か!? やっぱり部屋に戻るか?」
「だ、大丈夫……これくらいすぐ治るから……」
精一杯強がってみせたが、胃や胸がむかむかして仕方がない。ほとんど吐けるものがないのに不快感だけがこみ上げてきて、それも辛くてたまらなかった。
ライアルが背中を擦 ってくれる中、声を潜めて尋ねてきた。
「お前、やっぱり妊娠してるな?」
「っ!?」
「その吐き気、つわりだろ? 腹はまだ膨らんでないから妊娠二ヶ月くらいか?」
ぎょっとして彼を見上げる。当たり前のように「妊娠」という単語が出てきて、由羅は驚愕した。
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