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第9話
「何故それを……」
何故妊娠しているとわかったのだ? いや、確かにその通りなのだが、ただの体調不良だとは思わなかったのか? こう見えても由羅は男だ。男が妊娠するなど普通はあり得ないのに、何故……。
すると、ライアルは何でもないことのように答えた。
「オメガの男なら子ができることもあるさ。それくらいわかってる」
「えっ……?」
「というか、オメガはほとんどそれが仕事みたいなもんだからな。ま、個人的にはあまり強制したくないけど」
「……???」
由羅が余程怪訝な顔をしていたのだろう。ライアルが少し呆れた表情になった。
「……お前、バース性の知識、ほとんどないみたいだな。その様子だと今まで苦労してきたんじゃないか?」
「それは……。というか、あなたは私の体質について知っているのか?」
「そりゃあ、ベインは人間と違って性教育もしっかりしてるからな。オメガのフェロモンやヒートについても当然知ってるさ。ちなみに、うちにいたジイ様も外から来たオメガだぞ。由羅と同じだ」
「えっ……!?」
驚きすぎて吐き気も引っ込んでしまった。自分と同じ体質の人間――彼の言う「オメガ」――が他にもいたなんて。もしいるのなら是非とも会ってみたい。
「あの、そのジイ様というのはどこに……」
「あー……ジイ様は三年前に亡くなったんだ。七十過ぎてたから寿命だな」
「そうか……」
「でも俺よりバース性に詳しいヤツならいるぞ。ちょっと変なヤツだけど、せっかくだから会いに行くか」
「え……わっ!」
急にライアルに背負われて、由羅は目を丸くした。普通に道案内してくれるだけで十分なのに。
「いや、あの……私一人で歩けるから……」
「体調悪い時は無理すんな。何かあってまた倒れられたら困るし」
「しかし匂いが……」
「これくらい我慢できなきゃベインのボスは務まらないよ。さ、行くぞ」
「…………」
下ろしてくれそうにないので、由羅はライアルの肩にそっと手を置いた。自分と違って大きくたくましかった。それに加え、妙な安心感もあった。
(不思議な人……)
まだライアルのことが全てわかったわけではない。彼らが何者なのか、ここがどこなのかもはっきりしていない。
だが、生まれて初めて自分を「一人の人間」として扱ってくれる。それだけはしっかりと感じていた。
そしてそれは、由羅が思っている以上に胸がすくものだった。
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