11 / 31

第11話

 実際に獣人(ベイン)を目の当たりにしたが、聞いてきた噂とは全然違った。  少なくともライアルは親切で優しいし、他の獣人(ベイン)たちも気のよさそうな者ばかりである。凶暴さや野蛮さは微塵も感じ取れない。何より、由羅が側にいても欲の(はら)んだ目を向けて来ないのは大きかった。 (これでは、人間の方が余程獣っぽいかもしれない……)  視線を落としていると、ライアルが笑いながら狼の頭を撫でた。 「その歳でここまで大きく獣化できるのはすごいな。これからも頑張れよ」 「はーい!」  後ろの子供たちと共に、変身した狼も返事をする。獣に変身しても普通に会話はできるようだ。そこが普通の獣との一番の違いかもしれない。  ライアルは広場を離れ、森の中に入っていった。 「あの……今更で申し訳ないんだが、ここはどこなんだ?」 「ああ、悪い。そういや何も説明してなかったな」  この森一帯は「獣人(ベイン)の森」、その森を切り開いて作られた獣人(ベイン)たちの里を「獣人(ベイン)の里」というそうだ(そのままだ)。先程の男女や子供たちが生活していた場所は、里の一部らしい。ライアルはその里を治めている(ボス)だそうだ。  もっとも、里で暮らしている者は皆家族みたいなものなので、ボスだからと言って年貢を徴収したり、権力を振りかざしてどうこうすることはないらしい。 「いい里だろ? 大きな争いもなく、みんな仲良く平和に暮らしている。これぞ俺たちのユートピアだな」 「ユートピア……?」 「理想郷って意味だ。そのユートピアを守るのが(ボス)の役目ってわけだ。責任重大だけど、かっこいいだろ?」  ライアルが誇らしげに胸を張るので、由羅も少し笑いそうになった。 「ああ、そうだ。この森を抜けると猪俣に戻っちまうから気をつけろよ? なるべくなら里の中にいた方が安全だ」 「えっ……? そんな近くにあるのか?」  これは驚きだ。てっきり遠い異国に来てしまったのだと思っていたのに。そんな目と鼻の先に猪俣があるなんて。

ともだちにシェアしよう!