16 / 31

第16話

(……でも、考えてみれば世の姫君も似たようなものか)  いっそ里に嫁入りしたと思えばいいかもしれない。  ライアルの子を産み、オメガとしての務めを果たし、静かに一生を終える。彼の愛はなくなるだろうが、里にいれば肩身の狭い思いをしなくて済む。外の世界よりずっと気楽だ。それで十分。これ以上のことを望んでは(ばち)が当たるだろう。  我ながら、失望を振り払うのが早いなと思った。長い年月、失意を繰り返していると復帰も早くなるようだ。 「うひひ~! いいね、いいね~! じゃあ特別に、僕から由羅ちゃんにもうひとつプレゼントしてあげる!」  ロイドは再び部屋の奥に引っ込むと、今度は金色の輪っかを持って戻ってきた。 「これ、オメガの(うなじ)を保護するのに使う首輪だよ。おまけに鍵付き~! 剥き出しのままじゃ万が一ってこともあるから、是非使ってちょうだい」 「項を保護する……? 何のために?」 「俺以外のヤツに項を噛まれないようにするためだよ。そこを噛まれると、オメガのフェロモンは性質が変わる。『項を噛んだヤツが(つがい)である』と身体が認識するらしくて、どんなにフェロモンを放出してもそいつにしか利かなくなるんだとさ」  随分と複雑な話だが、要するに「項を噛むべきなのは番になる相手だけ」ということだ。  由羅は首をかしげた。 「それなら、今噛んでしまった方が安全なのでは……?」 「まあ、それが一番合理的だとは思うが、『項を噛む』のは初夜の時にする行為だからな。その前にするのは反則だ。その時までとっておこう」 「……そうか。あなたがそう言うなら」  由羅は留め金を外し、輪を首にかけてパチンとしっかり固定した。そしてカチッと鍵を閉めた。これで簡単には外れない。  由羅はライアルに鍵を差し出して、言った。 「これはあなたが持っていて欲しい」 「え? 俺でいいのか?」 「ああ。初夜の時にあなたが外してくれ」  そう言ったら、ライアルは「わかった」と大切そうに鍵をしまった。 「さ・て・と! もう話は終わったかなー? じゃあせっかくだから、開発中のスープ味見してって~!」  ロイドは何かを煮込んでいた大鍋を火から下ろし、オタマで中身を掻き回した。ライアルが中を覗き込んだが、途端に渋い顔に切り替わった。

ともだちにシェアしよう!