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第20話

 ここのところライアルは里の外に出ずっぱりだった。移動中の仲間の警護、森での食料調達……等々、毎日忙しそうに動いていた。夕暮れ間近に、擦り傷を大量に作って帰ってきたこともある。  それでも彼は疲労の色をほとんど見せず、いつも由羅を気遣ってくれた。  由羅のことを第一に考えて、由羅お気に入りの果物を採ってきてくれたり、暖かい毛皮を仕入れてくれたり、陽当たりのいい部屋を別に用意してくれたりした。こんなに大切に扱われるのは初めてだから、やや申し訳ないとも思ってしまう。  だからこそ由羅も、ライアルのためにできる限りのことはしてあげたかった。  爪を切り、髪を撫でつけ、風呂で丹念に背中を流す。彼がいない時には(はた)を織り、針仕事をし、帰ってくる頃には温かい食事の支度をして待つ。今の由羅にできることはそれくらいしかないが、自分だけ先に里を出るより、(つがい)としての役目を果たしたかった。 「大丈夫だよ。仲間は大方移動したから、もうすぐライアルも引っ越しを始めるだろう。あと二、三日の辛抱じゃないか?」  そして、新たな理想郷(ユートピア)に辿り着いた暁には、初夜を迎えてライアルと子作りを……。 「ウオォォン!」  外から野太い咆哮(ほうこう)が一声聞こえて、由羅は針仕事を中断して外に出た。  今日は随分と帰ってくるのが早い。まだ夕食の支度もしてないし、風呂も沸かしていない。何かあったのだろうか。  邸のすぐ前には、全長七尺(二メートル強)もある金色(こんじき)の獅子が佇んでいた。獣変化したライアルだった。 「由羅! 無事だったか!」 「ライアル……。どうかしたのか?」 「急いで逃げろ! 人間たちがすぐそこまで来てる!」 「えっ……?」 「悪い、細かい説明をしている暇はないんだ。とにかくこのまま移動しよう。残ってる連中も全員連れていく」  あれよあれよと外套(がいとう)を被らされ、長旅用の靴を履かされ、広場に連れ出される。火薬の臭いが微かに風に乗って飛んできた。  ライアルは広場に集まっている人数をサッと確認し、ロイドに向かって言った。 「ロイド、先に皆を安全な場所まで誘導してやってくれ」 「しょうがないなー。このスーパー獣人(ベイン)・ロイドさんに任せておきなさい」 「ライアル……!」  背を向けて走り去ろうとする彼に、由羅は声をかけた。

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