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第21話

「あなたはどうするんだ?」 「俺は人間たちを足止めしてから逃げる。なに、ちょっとした時間稼ぎだよ」 「そんな……」 「大丈夫だ、これでも俺は強いからな。そう簡単にやられはしないさ」 「…………」  たまらず、由羅は両腕を伸ばしてふさふさの(たてがみ)を抱き締めた。働いて流した汗に混じって、ふわりと男の匂いが漂ってきた。由羅とは全く違うたくましい香りだった。思わず胎内が小さく疼いた。 「……なら、気をつけて。くれぐれも無茶はしないで」 「ああ、もちろんだ。由羅も気をつけろよ」  舌先でぺろりと頬を舐められ、今度は胸の奥がきゅんと疼いた。  ライアルは里の外へ走って行った。不安と焦燥感で目の奥が熱くなったが、由羅はただその背を見送ることしかできなかった。  ロイドが慰めるように肩に手を置く。 「大丈夫だよ、ライアルは絶対帰ってくる。それより早く里を出よう。ぐずぐずしてたら追いつかれちゃう」 「……わかった」  やむを得ず、由羅はロイドの指示に従った。  人間たちがいない道を通って森を抜けると、やや開けた山道に差し掛かった。ここは木や砂鉄を多く採っている場所なのか、緑が非常に少なかった。岩肌が剥き出しになっており、ところどころに枯れ木が立っている。足場も悪く、斜面も急で、一歩足を踏み外したら崖に転落してしまうような危険な場所だ。  ドン、ドン、と遠くから鉄砲の音が聞こえた。獣の雄叫びや遠吠えも聞こえてきた。ライアルが戦っているのだろうか。 (ライアル……)  どうか無事でいてくれ、早く帰ってきてくれ。あなたがいなければ、私は無価値なオメガになってしまう。アルファの番になってアルファの子を産む。それでようやく私は務めを果たせるのだから……。 「由羅ちゃん、早く行くよ! ここは一番危ない場所なんだ。早く抜けなきゃ」 「あ、ああ……」  そう返事をした時、すぐ後ろからズドン、という音が聞こえた。刹那、すぐ近くの岩場が(えぐ)れ飛んだ。  振り返るやいなや、鉄砲を構えた男どもが目に入った。十人以上はいる。しかもその中には猪俣の領主・好文までいた。彼は積極的に陣頭指揮を採るような人物ではないのだが、今回の獣人狩りに関しては非常に熱心なようだった。

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