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第22話
「いたぞ、獣人どもだ! 全員討ち殺せー!」
好文がそう命じた途端、鉄砲が一斉に発射された。空気を引き裂く爆音に、仲間たちの悲鳴も掻き消された。周りの仲間が鉛弾を受けてバタバタと倒れていく。血と硝煙の臭いが鼻についた。
「ちっ……」
ロイドもどこかを撃たれたのか、バランスを崩して崖下に転落していった。
「ロイドさん……っ!」
由羅は、ロイドの身体が小さくなっていくのをただ見ていることしかできなかった。
けれど落下していく彼を見た瞬間、心の中で何かが弾けた。自分自身が弄ばれた時はほとんど何も感じなかったのに、親しかった者を害された途端、皮膚が弾けそうな感情が沸騰してきた。自分の中にこれほど激しい感情が眠っていたなんて驚きだ。
だがそれよりもっと驚いたのは、感情を弾けさせた瞬間、灰色の世界に豊かな光彩がのったことだった。バチバチと火花が弾け飛ぶように、目に映るもの全てが瑞々しい色に染め上げられていく。
「おぬし、もしや由羅ではないか?」
「……!」
不意に好文に声をかけられ、由羅はそちらに目をやった。久しぶりに彼の姿を見たが、猪のような出で立ちは変わっていなかった。
(こんな男に、大事な仲間を……!)
由羅は歯噛みした。今ほど好文を絞め殺したいと思ったことはなかった。
好文が緩んだ笑みを向けてくる。
「おお、獣人に喰い殺されたと聞いたが無事だったのか。相変わらず愛 いヤツよ。さあ邸に帰ろうぞ」
「……嫌だ」
「何を申しておる。おぬしは我が家宝ぞ。おとなしく儂の邸に……」
「触るな!」
由羅は伸ばされた手を強く払い除けた。こんな振る舞いをするのは生まれて初めてだった。ぐっ……と掌を握り、あえて淡々とした口調で告げる。
「私は獣人 の長 、ライアルの番 だ。あなたのものではない」
「何を言い出すかと思えば……」
好文が小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「哀れなヤツよ。おぬしは獣人に惑わされておるのだ。獣 の番 になるなど、正気の沙汰ではない」
「私は正気だ!」
感情のままに大声を出す。またバチバチと視界が鮮やかになった。
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