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第23話

「いつも正気を失うのはあなたの方だろう。私の香りに惑わされ、理性を失い獣と化す。私にとってはあなたの方がずっと凶暴で野蛮な化け物だ。そんな人に囚われるくらいなら、ここで死んだ方がマシなんだよ!」 「な、なんと生意気な……!」  好文の顔がみるみる真っ赤になっていく。わなわなと怒りに震え、老いた相貌が醜く歪んだ。 「そこまで言うならもうよい! 化け物どもとあの世に行け!」  銃口が一斉にこちらを向く。  だが次の瞬間、崖の上から地響きのような咆哮(ほうこう)が聞こえてきた。ハッとしてそちらを見たら、巨大な金色(こんじき)の獅子が一気に駆け下りてきた。 「うわぁぁ! 化け物だ!」 「怯むな! 撃て撃てー!」  男たちが鉄砲を構える。が、それより先に獅子が集団に飛び込み、片っ端から男どもを薙ぎ倒していった。 「あぐっ!」  好文もあっさりと殴り飛ばされ、持っていた鉄砲ごと遠くの地面に叩きつけられた。彼はそのまま動かなくなった。  全員を叩きのめしたところでライアルがこちらにやってきた。 「由羅、無事か!?」 「ライアル……!」  金色(こんじき)(たてがみ)、力強い四肢、鋭い牙。間違いない、ライアルだ。やっと彼が来てくれた……!  由羅は両手を彼に差し伸べた。彼は身体を(かがめ)め、舌先で由羅の頬をぺろりと舐めてきた。  たまらず、ふわふわの鬣ごと彼を抱き締める。途端ぬるりとした妙な感触を覚えた。ぎょっと身体を離すと、抱き締めた腕にべっとりと赤い血糊が付着していた。鬣に隠れていたが、ライアルの首には鉄砲で撃たれたらしき傷跡があった。身体にも細かい傷が無数についている。 「ライアル、この傷は……! 早く手当てしないと!」 「……いや、大丈夫だ。こんなん舐めときゃ治る。それよりお前は? 怪我してないか?」 「私は大丈夫だが……」 「ならよし。……他の連中は……?」 「…………」  由羅は小さく首を振った。ライアルは全てを察したように「そうか」と一言呟いた。

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