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恋を失う3

秋田の実家では、犬と猫3匹を飼っている。 両親とも動物は大好きで、生まれた頃から家に猫がいるのは当たり前だった。大学は地元ではなく仙台だったから、入学と同時にこのアパートで一人暮らしを始めた。ここは猫を飼ってもOKなのだが、一人暮らしだと留守がちになるので、今まで飼おうと思ったことはなかった。 「やっぱりいいな、猫がいるのは」 拓斗は誰にともなく呟いた。 きっと自分は寂しかったのだ。 だから、ようやく見つけた自分と同じ性的指向のあの男の温もりに、無我夢中で縋り付いてしまった。もう少し心に余裕を持って、ゆったりと距離を保つべきだった。 自分の形がなくなってしまいそうなほど、この恋に溺れ過ぎていたのだ。 「にゃーん……」 ちびが鳴きながら、手にまとわりついてくる。 拓斗は物思いからハッと我に返り、ちびの頭を撫でた。 「ああ、ごめん。もういいよ、おあがり」 エサの皿とミルクの皿を並べてあげてそう言うと、ちびはじーっとこちらを見つめてから、皿に顔を突っ込み食べ始めた。 お行儀のいい猫だ。 実家の猫は、エサを皿に出し切る前に、争うようにして皿に顔を突っ込んでいた。茶色の長く艶やか毛と光の加減で翡翠色に見える瞳。見た目も野良とは思えない品のある猫だ。 拓斗は身を起こすと、今度は自分の分の夕食を作り始めた。 6年以上の一人暮らしで、一応自炊は身についている。といっても、せいぜいがカレーや炒飯、パスタぐらいの簡単なものだが。 鍋に水を入れてお湯を沸かす。 今日は残業で少し帰宅が遅くなったから、これからご飯を炊くのは面倒だ。 ツナ缶と野菜の切れ端で、簡単にパスタを作ることにした。

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