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恋を失う4
翌朝起きると、少し目が腫れぼったい。
昨夜、馬鹿みたいに思いっきり泣いたせいだ。
だが、ここ2週間鬱々としていた心が、昨夜の涙で少し洗い流されたような気がする。
まだ傷は塞がらずにチクチクと痛むが、だいぶ気分は落ち着いていた。
「おはよ」
ちびがベッドに飛び乗ってくる。両脇に手を入れて抱き上げ顔を覗き込むと、じたばたしながら「にゃーん」と小さく鳴いて、鼻の頭をぺろぺろ舐めてくる。
「ふふっ。擽ったいよ、おまえ。あ……名前……ちゃんとつけてやらないとな」
拓斗は身体を起こして膝の上にちびを抱っこし、柔らかい毛並みを優しく撫でた。
目をやると、デスクの上のデジタル時計は、そろそろ起きて会社に行く準備をする時間を告げている。
少し気分は浮上したと言っても、今日もあの会社に行って彼と顔を合わせることを思うと、また気が滅入ってくる。
彼とは部が違うが、隣の部で席も近い。
同じ内勤営業だから、担当の外勤と一緒に出かける時以外は、同じオフィスのフロアの中でことある事に顔を合わせる。
付き合い始めの頃は、その近さが嬉しかった。ふと顔をあげて、島違いで向かい合わせの彼と偶然目が合うと、心がときめいた。
それが、今となっては苦痛の元凶なのだ。
情けないとは思ったが、転職することも考えた。失恋で職を変えるなんて本当に馬鹿馬鹿しい話だ。でも日々の大半を過ごすオフィスが苦痛な場所になってしまうとなると、仕事へのモチベーション自体にも少なからず影響が出る。だが、大学を出てすぐに決まった今の職場以上に、条件のいい仕事なんて、今の世の中そう簡単には見つからない。
拓斗はため息をつくと、ちびを抱っこしたままベッドから降りた。
「覚悟決めて仕事に行くか……」
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