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恋を失う5

「深月くん。課長が呼んでるよ」 デスクのPCにへばりついて来月の製造日程を組んでいると、同期の永田がコーヒーを片手に隣の席に戻って来た。 「あ」 拓斗は顔をあげて永田を見上げる。永田は苦笑しながら首を竦めて 「あんまりご機嫌よくないよ、課長。昨日お得意さんとこに行ってたんだろ?例の納品ミスの件で」 拓斗は、課長席の方を見た。 「石橋課長……今どこに?」 「第3会議室。下請けのハイゼンさんとこの社長も来てるから、コーヒー3つだってさ」 拓斗は首を竦めて頷くと、データ保存してからPCの電源を落とし、嫌々立ち上がった。 ……営業の佐々木さんは自分の最終チェックミスだって言ってくれたけど…工場長に伝達ミスしたの、俺だもんな…。 新商品の発売にはぎりぎり間に合うが、相手はうちの会社の取引先の中でも最大手だ。今回のペナルティはかなりキツいだろう。最悪の場合、今後の取引がライバル社にいってしまう可能性もある。 拓斗は重い足取りで給湯室に向かった。 失恋ごときで凹んでいる場合じゃないのだ。下手すれば、今回の責任をとって地方営業所に飛ばされる可能性だってある。 ……地方営業所か……。飛ばされるなら、それでもいいかな……。 そもそも今回の伝達ミスは、その失恋直後に起きた。ショックで茫然自失していて、仕事中も上の空だった。 自業自得だ。いい大人の男が、恋なんかに現を抜かしていたのがいけない。 まだ外勤を経験しないうちに地方に出向というのは、うちの会社ではいわゆる「使えないやつ認定」と暗黙の了解で決まっている。 だが……このまま事務所で、あいつと顔を合わせて胸の痛みを引きずるよりも、その方が気は楽かもしれない。 ぼんやり考えながら、狭い給湯室に足を踏み入れてから気づいた。 先客がいる。 あの後ろ姿は…修平。 元カレだ。 ……うわ。

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