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恋を失う10
佐々木はゆらゆらしながら、またもたれ掛かってきて、
「家が隣同士だったんだ。俺が途中で引っ越したからさ、高校は別だったけど、な」
「じゃあ、大学は偶然同じに?」
「そ。あいつとは腐れ縁なんだよ。今はあんな気取って格好つけてるけどさ。いっつも近所の女子にからかわれて、ぴーぴー泣いてたんだよ。人見知りでな、俺の後ろに隠れてばっかりで」
意外だった。
4部の岩館といえば、この隣の男と社内で女子の人気を二分しているイケメンだ。爽やか好男子の佐々木とは真逆な印象の、ちょっとチャラい雰囲気の男だが、嫌味がなくてサバサバしていて話しやすい。
「へぇ……あの岩館さんが。ちょっと意外ですね。今とはイメージがかなり違う」
拓斗が思わずくすくす笑うと、佐々木はグラスから目をあげて、ずいっと顔を近づけてきた。
……や。近いですってば。
こちらが顔を突き出せば、うっかり唇が触れてしまいそうな間近に、甘い王子系マスクの佐々木の顔がある。
「おまえはさ。岩館のこと、好きか?」
「っ……好きって……や、いい人だと思いますよ。話しやすいし、意外と真面目だし」
この話の展開がどう進むのか、予想がつかない。下手なことを言うと、佐々木が怒りだしそうで怖い。
「俺はさ。あいつには借りがあるんだよ。だからあいつにだけは、絶対に幸せになって欲しかったんだよなぁ…」
拓斗は表情を引き締めた。
佐々木が何のことを話そうとしているのか、ようやく分かったのだ。
岩館俊実(としみ)は既婚者だった。まだ大学在籍中におないどしの幼馴染みと結婚して、新婚でこの会社に入社したのだ。だが、今は独り身だ。詳しいことはよく知らないが、奥さんは半年前に癌で亡くなっているらしい。
いつもならば絡み酒でもどちらかというと甘えたような可愛い絡み方をしてくる佐々木が、なんだか妙にしんみりとしていて、声にも元気がない。慰めたいのはやまやまだが、こちらは情報が足りないのだ。
「えっと……岩館さんに借りって……どんな?」
あまり深入りしてはいけない気もするが、つい探りを入れてしまった。
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