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恋を失う11
「あいつは俺の、命の恩人なんだよ。あいつがいなければ、俺は今、生きてこうして酒なんか飲んでない」
……それはちょっと……ヘビーだな。
今まで何度も一緒に酒を飲んできたが、ここまで個人的な話題にはなったことがない。
自分はもともと不器用で、人付き合いは上手くないし、だからなるべくオンオフは分けたい方だ。それに、会社の人間とあまり親密になり過ぎると、プライベートで気まずくなった時に仕事にまで影響が出る……ということを今回の失恋で学んだばかりなのだ。
だが、どんな内容なのか、ちょっと気になる。
「命を、助けられた?」
「そ。そのせいであいつ、片耳が少し不自由なんだよ。片目の視力もかなり悪い」
また新情報だ。それは噂でも聞いたことがない。
「ね、佐々木さん、そういう話、俺なんかにしちゃって大丈夫ですか?」
酔って自制心をなくしているのなら、後で自分に話したことを後悔するかもしれない。
ぐらぐらしていた佐々木が、ひょいっと顔をあげてこちらを見る。何故だか不思議そうな顔をしていて
「目と耳の話なら、あいつとちょっと仲いい奴なら皆知ってるよ?……そうか……君はそこまであいつと親しいわけでもないのか」
それはさっきも言ったはずだ。
拓斗は内心ちょっと拗ねた。
「それで。佐々木さんは何をそんなに悩んでるんですか?」
拓斗が少し強い口調で問い質すと、佐々木は急に気弱な顔になり
「んー……まあ、いや、いいんだ。ちょっと俺が勘違いしていただけかもしれない」
煮え切らない言い方で言葉を濁すと
「深月はさ、小川くんとはたしか結構仲いいんだよな?」
急に矛先を違う方向に向けてきた。
今度は拓斗の方が落ち込む番だ。
小川……というのは小川修平。
つまり、自分が別れたばかりの元カレのことなのだ。
「あ……いや、そんな仲いいってほどじゃ」
拓斗が目を逸らし、ビールのグラスを煽ると、佐々木は食べ残しの唐揚げを、ひょいっと摘んで口に放り込み
「小川くんから聞いてるよ。休みの日、あちこち出掛けてるって。そういや前に、あいつの故郷まで一緒に旅行してたよな?」
口をもぐもぐさせながら、無邪気にそう言い放つ佐々木に、拓斗は頬を引き攣らせた。
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