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恋を失う14
拓斗は目を見開いた。
酔って眠ってしまった佐々木を、タクシーでアパートまで送ったことは何度かあったが、泊まれなんて言われたのは初めてだ。
「え……や、でも、」
「今日は遅くまで突き合わせちゃったからな。最終バス、もうないだろ?この時間じゃ。タクシーで帰るんなら俺のアパートの方が近いし」
佐々木は妙に必死な様子で、畳み掛けてくる。
やっぱり、今日の佐々木は何だか様子がおかしい。肝心なことには触れずじまいだったが、もしかしたら何か悩んでいて話を聞いて欲しいのだろうか。
でも……。
「すいません。俺、ちょっと前から猫、飼い始めて。泊まるように何も準備してこなかったんで、今夜は帰らないと」
「猫?」
佐々木は意表を突かれたように目を丸くした。
「ええ。野良猫…拾ったんです」
「それは……本物の猫、だよな?彼女の隠語って意味じゃなくて」
「猫です。カノジョじゃありませんよ」
佐々木はまだ納得しない様子で、まじまじとこちらを見つめて
「おまえ、実家じゃないよな?1人暮らしだよな。いや、あのアパートなんだろ?」
「ええ。変わってないですよ。あのアパートです」
「猫飼ってもいいのか、あそこ」
「大家さんがものすごい猫好きで。だから猫はOKなんです」
佐々木は眉を寄せ、うーん…っと唸ってから
「独身男でしかも残業ばっかのうちの仕事してて、猫、飼うのか。……おまえってやっぱりちょっと変わってるな」
いきなりの変な男認定に、拓斗はちょっとムッとした。
「いや、別に普通ですよ。独身の男だって猫好きはいます」
「だって世話はどうするんだよ。猫飼ってたら付き合いも出来ないだろ?おまえって前から女っ気ないって思ってたけど……まさか猫まで飼い始めちゃうなんてなぁ…」
佐々木はだいぶおかしな偏見持ちらしいと分かった。独身だろうが男だろうが、猫が好きで飼う人間もいるし、それと女っ気がないのは関係ない。自分の場合は、女には興味を持てないだけだ。
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