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恋を失う15
「あ、ちょっと待ってくださいね。そこら辺、散らかってるから」
ふらふらと部屋の奥に行こうとする佐々木を引っ張っていって、ライティングテーブルの椅子に座らせると、拓斗は散らばっている雑誌や服を床から拾い上げた。
……もう……。どうしてこうなるんだよ。
猫がいるから…と断ったら、酔っ払い特有の強引さで、こちらのアパートに来てしまったのだ。
学生の頃から一人暮らし用に借りているアパートだ。急な来客を泊めるスペースなんてないのに。
押し切られてダメと言えない自分が情けないのだけれど。
ベッドの布団も直して、横に重ねておいた座布団をフローリングの床に敷く。振り返ると佐々木はキョロキョロと部屋の中を見回していた。
「相変わらず小綺麗にしてるよな。俺の部屋よりサッパリしてる」
「狭いでしょう?いい加減、もうちょっと広い部屋に引っ越そうと思ってるんですけどね」
佐々木は見回すだけでは飽き足らず、テーブルの下を覗き込んでいる。
「なに、やってるんですか」
「んー?いや、いないなーって思ってさ」
「何がです?」
佐々木はひょいっと顔をあげた。
「猫。飼ってるんだろ?」
「ああ……」
「おまえ、もしかして俺んとこ来るの断る口実だった?」
拓斗は苦笑して
「まさか。いますよ、たぶん上かな?」
「上?」
佐々木が天井を見上げる。
「いや、あっちです。ロフトがあるんですよ、そこの上です」
拓斗が反対側の奥を指差すと、佐々木はそちらに首を向けて
「へえ……いいな。ロフト付きか」
「狭いですけどね。結構収納出来るんで助かってます」
2人が見上げた瞬間、ロフトから「にゃあ…」とか細い声が聴こえた。
「お。猫だ」
「おいで、ちび」
ちびは柵の間からひょこっと顔を出して「みゃー…」とまた鳴いた。いつもなら、拓斗が部屋に入ってくるのを降りて待ち構えているのだ。きっと見知らぬ来客に、警戒しているのだろう。
拓斗はロフト用の小さな階段に近づくと、両手を広げた。
「おいで。大丈夫だから」
「にゃーぅ」
ちびは返事をするようにひと声鳴くと、階段をひょこひょこと降りてきた。小さな身体を抱き上げて、佐々木の方へと戻る。
「うわ。まだちっこいな、こいつ」
拓斗はちびをそっと床におろした。ちびはまだちょっと警戒しながら佐々木の足元に近寄ると、鼻をひくひくさせて匂いを嗅いでいる。
「触ってみても、いいか?」
「いいですよ。そっと撫でてみてください」
佐々木は、恐る恐る手を伸ばし、ぎこちない手つきでちびの頭を撫でた。
「みゃー……」
ちびは人懐こいのだ。すっかり安心したのか、佐々木の手に自分の頭を押し付けるようにして、気持ちよさげに首を傾げてみせた。
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