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恋を失う17
「佐々木さん、風呂はどうします?酔いがさめたんなら、そろそろお湯たまってますけど」
「ああ……じゃあ先にもらうかな」
拓斗は頷くと立ち上がった。
「じゃあ先入ってください。バスタオルと下着、用意しとくんで」
「ああ、悪いな」
佐々木はバツが悪そうににやりとしてから立ち上がり、風呂場に向かった。
「先にもらったよ。下着、悪かったな」
風呂からあがった佐々木が、トランクス1枚の姿でバスタオルで頭を拭きながら部屋に戻って来た。用意した下着は、自分用のまだ袋から出していなかった新品だ。やはり佐々木のガタイでは1サイズ小さかったようで、妙にピッチリして見える。
拓斗は慌てて目を逸らした。
こういうのは、学生時代に友人を泊めていた時にも目の毒だった。
みんな、自分がゲイだとは知らないから、同性の気楽さで、平気で下着姿のままウロウロする。もちろん、男なら誰でも性的対象になる訳ではないが、ストレートの男が、その気のない女に下着姿でウロウロされるのと同じなのだ。
目のやり場に困る。
佐々木は意外と着痩せするタイプだと分かった。スーツ姿の時にはもっとほっそりして見えたが、何かスポーツでもやっていたのだろう。鍛えられた筋肉が綺麗についていて、がっしりした体つきだ。
「あ。じゃあ俺、入ってくるんで。佐々木さん、寝るならベッドで寝ててください。シーツとか、新しいのに替えておきましたから」
「え?いや、いいよ。俺はこっちのマットで」
反論しようとこちらを向いた佐々木の身体を見ないようにして、さっさと部屋を出て風呂場に向かう。
風呂場で服を脱ぎ捨て、ざっと身体を洗ってから湯船に浸かる。
拓斗は、ほぉ……っと深い吐息をついた。
思いがけぬ展開で、気疲れしていたみたいだ。
ようやく一人になれて、一気に緊張がほぐれた。
修平は、やはり佐々木には何も言っていないらしい。男同士で付き合っていたのだと佐々木が知っていたら、あんな風に無防備に裸を晒したりはしないだろう。いや、ここに泊まると言い出すこともないかもしれない。
さっさと風呂からあがって布団に入って寝てしまおう。佐々木と過ごしていたおかげで、今日は最近恒例になっていた失恋の思い出し泣きをしないで済んでいた。
でも、ダメなのだ。
ついうっかり修平のことを思い出してしまった。胸の奥の疼きは、まだ完全に癒えてはいない。
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