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恋を失う18

髪の毛と顔を洗って、申し訳程度に生えていた薄い髭に剃刀をあてる。もう一度、湯船に浸かってギリギリまで足を伸ばした。 このアパートは、狭いが使い勝手がよくて気に入っている。ただ、風呂だけは気に入らなかった。古いタイプのユニットバスで、湯船がものすごく狭いのだ。 時々、広い湯船に浸かりたくなって、近所のスーパー銭湯に行ったりもするが、そっちは人の目が気になって落ち着かない。 「そろそろ……新しいアパート見つけようかな……」 東北ではかなり大きな安定企業に就職出来て、そこそこいいお給料も貰えている。金のかかる趣味もないからそれなりに貯金も貯まってきた。猫が飼えてもう少し広めのマンションにでも越したいと、前から思ってはいた。 拓斗は狭い湯船でうーんっと伸びをしてから、ザバっと立ち上がった。 その瞬間、風呂場のドアが開いて、佐々木がひょいっと覗き込んできた。 「なあ、今ちょっと、」 「うわっ」 驚いて叫んだまま固まった。まさか佐々木がドアを開けるなんて思ってなくて、タオルで前も隠していないスッポンポンだ。風呂に入っているのだから当たり前なのだが。 こちらの声を聞いて、佐々木も目を丸くする。拓斗は慌てて湯船にしゃがみ込んだ。 「な、どーして、開けるんですか!」 「おまえこそ何て声出してるんだよ。あーびっくりした。今、コンビニで飲み物買ってくるけど、おまえは何がいい?」 ……飲み物?……って……まだ飲む気なのか。 「や、俺は、いいです。っていうか、佐々木さん、まだ酒飲むんですか?」 「いや、酒より何か甘い物が食べたくなってきてね。プリンとかゼリーとか、アイス。おまえも食べないか?」 拓斗はふるふると首を横に振り 「俺は、いいです。あ……コーラか何か……炭酸が飲みたいかも」 「コーラな。OK。玄関開けっ放しで行くけど大丈夫か?」 「あ。はい、もう俺、出るんで」 佐々木はにこっと笑うと、そのまま顔を引っ込めドアをバタンと閉めて行ってしまった。 拓斗は、はぁ……っとため息をつき、まだドキドキしている胸を手で押さえる。 ……もう……不意打ち、やめてくださいって。俺、思いっきり股間見られたし。 気にしているのは自分だけだ。佐々木は多分、見えても何とも思わないのかもしれない。男同士なのだから。 でも自分は気になるのだ。 見るのも見られるのも。 ……はぁ……めんどくさい。俺って。

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