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恋を失う20

「ただいま」 佐々木が外の冷たい空気を纏って戻って来た。 拓斗は自分の頬を両手で擦ってから、ベッドから立ち上がる。 「不用心だぞ、鍵、掛けてないのか?」 コンビニの袋をぶら下げて、佐々木が部屋に入ってきた。 「大丈夫ですよ、俺、男だし」 「何言ってるんだよ、今どき、男だって危ないんだぞ。おまえ、かなり可愛い顔してるしさ、変な奴に襲われたらどうするんだよ」 可愛い顔、と言われてドキッとした。 今まで、佐々木に自分の容姿のことを言われたことはない。 学生時代は友人たちによく揶揄われた自分の女みたいな見た目も、就職してから面と向かって言われたのは、修平からだけだった。 「可愛く……ないですよ、俺」 「いや、相当可愛いよ。可愛いって言うより綺麗、かな。体格もほっそりしてるし。なぁ、おまえ、どっち食べる?」 床に置いたクッションにドカッと腰をおろし、コンビニ袋から佐々木が取り出したのは、夜中のデザートにしてはちょっとボリュームのありすぎるパフェだった。 「うわ。今からこれ、食べるんですか?」 「なんだよ、店じゃつまみしか食べてないだろ。小腹空かないか?」 プリンと生クリームとフルーツがたっぷり乗ったデザートカップを、拓斗はしげしげと眺めた。コンビニスイーツだから大きさは小ぶりだが、もう夜中の12時近いのだ。 「こっちはフルーツで、こっちはチョコバナナだ。どっち食べたい?」 どっちも今は食べられない…とは言えない。佐々木はひどく楽しげに、こちらの顔を覗き込んでくる。 「あ……じゃあ、フルーツの方、いただきます……」 すかさず、スプーンを渡された。 佐々木はフタを外して食べ始める。 「佐々木さん、俺の、コーラは?」 「おまえね、こんな夜中にコーラなんて飲むなよ。太るぞ」 拓斗は目を大きく見開いて、今度は佐々木の顔をまじまじと見つめた。 ……や。夜中にそのパフェ、ガツガツ食ってる貴方に言われたくないんですけど…。 「ん?どーした。食べないのか?」 「あ、いえ。いただきます」 拓斗はフタを外して、スプーンでパフェをすくって、恐る恐る口に放り込む。 「時々さ、こういう甘いやつ、無性に食べたくなるんだよな。でも喫茶店に入ってパフェって頼みづらいだろ?コンビニのデザートって、重宝だよな」 佐々木は、なんだかさっきより浮かれているような気がした。 「佐々木さん、何かいいこと、ありました?」 パフェをつつきながら、なんの気なしにそう言うと 「え。何で分かったんだ?」 佐々木は手を止めて驚いた顔をした。

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