21 / 164

恋を失う21

「や。何となくですけど…さっきと随分、雰囲気違うから…」 「へぇ……おまえって鋭いんだな」 佐々木は手元のパフェに視線を落とし、柔らかく微笑むと 「さっきコンビニ向かう途中で、喧嘩してた相手から電話がかかってきてさ」 「喧嘩って……彼女、ですか?」 「いや。違うよ。恋人じゃない。でも……もしかすると恋人以上に、俺にはすごく大切な人かもしれないな。ただ、今回の喧嘩はかなり深刻だったから……もしかしたらもう、仲直りは無理かなって思ってたんだ」 パフェをスプーンでつつく佐々木の表情が、何とも言えず優しい。きっとその相手のことを思い浮かべているのだろう。 「佐々木さん、悩んでたのって、そのことだったんですね。仲直り……相手から言ってくれたんですか?」 佐々木はふふっと思い出し笑いをすると 「んー。あれは仲直りしたいっていう意味だったのかな。違うかもな。もっと喧嘩吹っかけてくる感じだったから」 「ええっ……でも、」 「でも、喧嘩してる時にあいつから電話くれるなんて、滅多にないんだよなぁ。だから……あいつなりに歩み寄ってくれたのかな?って勝手に思ってる」 拓斗は佐々木の横顔から目を逸らし、自分のパフェをつついた。 「佐々木さんの顔、好きな相手のこと想ってるって感じです。付き合ってる彼女さんには、見せない方がいいですよ、そういう顔」 佐々木は顔をあげ、驚いたようにこちらを見て 「え?そうか?俺、そんな顔してたか」 「ええ。たぶん、焼きもち妬かれますよね。そんな顔、彼女に見せたら」 「ふーん……そうか、俺、そんな顔してたか」 佐々木は意外そうに呟いて、首を傾げている。 拓斗は甘そうなソースのかかったメロンをスプーンですくいあげ、ぱくっと口に放り込んだ。 すごく愛おしそうに感じたのだ。たぶん、自分が彼女の立場なら、あんな表情であのセリフは絶対相手に嫉妬する。 「まあ、俺いま、フリーだしな」 「え。付き合ってないんですか?前に総務課の子と噂になってましたよね」 「いやぁ……あの子はさ、俺と付き合う気なんかもともとなかったよ。もっと大物狙いだからね。2、3回飲みに行ったけどそれで終わり」 佐々木は、チョコソースのたっぷりかかったバナナとアイスをスプーンですくい上げると 「な、拓斗。こっち向いてみろよ」 「え……?」 拓斗が佐々木の方に顔を向けた途端、口の前にスプーンがにゅーっと伸びてきて 「これ、やるから、おまえのも味見させろ」

ともだちにシェアしよう!