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恋を失う22
拓斗は目を丸くして、目の前のてんこ盛りのスプーンと楽しそうな佐々木の顔を見比べた。
……いや、どうして俺に、突然お口あーんですか。
「ほら。口開けろって」
佐々木はぐいぐいとスプーンを近づけてくる。そのままだと口にチョコソースがべっとりだ。拓斗は仕方なしに口を開けた。
「美味いか?」
「ん……。甘いです、それ」
口をもぐもぐしながら答えると
「ほら、おまえのもひと口、寄越せよ」
促され、拓斗はスプーンで大きくひと口すくって差し出した。ぱくっと佐々木がそれに食いつく。
「佐々木さん……コンビニで酒買って飲んだでしょ?」
「お。どうして分かる?」
「だって……明らかにさっきより酔ってますよね」
「祝杯だよ。胸のつかえが取れたからね」
嬉しそうな佐々木に水をさすのも悪くて、それ以上は文句は言わずにいた。
佐々木にとっては、この程度の距離感はそれほど深い意味はないのだろう。
妙に意識してしまって、おかしな態度をとる方が変だ。
「それ、食べ終わったらそろそろ寝ますよ。もう12時です」
「うん。さっきコンビニで歯ブラシ買ってきたよ。拓斗。付き合わせて悪かったな。お陰でいろいろ助かったよ」
いつの間にか、名前の呼び捨てが当たり前になっている。佐々木が男女問わずモテるのは、きっとこういう所なのだろう。強引なわりに嫌な感じがしないし、すごくナチュラルに垣根を越えてくる。
「佐々木さんって……人たらしですよね」
思わずボソッと呟くと
「なんだそれ?」
佐々木は悪びれない感じで楽しそうに笑った。
……いや。でも、これは流石に……。
拓斗は壁にピッタリと張り付き、布団の中で身を縮こまらせている。
歯磨きをして、寝る体勢が整うと、床にマットを敷いて寝るという拓斗に、佐々木が難色を示した。疲れが取れないからダメだと。
そして、相変わらずの強引さで、拓斗をベッドにあがらせて奥に押しやり、佐々木もベッドにあがってきたのだ。
少し広めのベッドがいいからと思い、社会人になってすぐに、学生の時に使っていたベッドを大きめの今のサイズに買い替えた。
でもあくまでも1人用なのだ。
修平が泊まった時だって、ここで2人並んで朝まで寝たことはない。
……いや、これって、床で寝るより疲れ、とれない気がするんだけどな……
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