24 / 164

恋を失う24

岩館の言葉に、拓斗は手を止めて、ひょいっと斜め上を見上げた。 「へ?俺にですか?」 「そ。あのさ、佐々木くん、昨日と同じスーツ着てるよね?ネクタイだけ替えて」 うわぁ…さすが社内でも人気のモテ男だよ、目ざといなー…と思ったが、拓斗はしらばっくれて小首を傾げた。 「あれ?……同じでした?」 途端に岩館はにやぁ…と笑って、肩をつんつんつついてきた。 「とぼけるんだ?あのネクタイって、深月くんのだろ」 拓斗は岩館の目を見つめて、ぱちぱちと瞬きした。本当に目ざとい。誰のネクタイかなんて分かるのか……。 「とぼけるのは、何か深い意味でもあるわけ?昨夜、飲みの後で君んとこに泊まったんだろ?佐々木くん」 にやにやしながら図星をさされ、拓斗は苦笑した。 「なんだ。そこまで気づいてたんなら、俺に聞かないでくださいよ。泊めましたよ。佐々木さん、いい感じに酔っ払って、強引に俺のアパートに来ちゃったので」 「あいつ、酒癖悪いからねぇ」 岩館は肩を揺らしてクツクツ笑っている。 「迫られたり、しなかった?」 「へ?誰がですか。俺、男ですけど」 岩館は、ちょっと探るような目になり 「ふーん。その感じだと、どうやら無事だったみたいだね」 「当たり前です。普通に部屋に泊めただけですから」 岩館は背もたれに頬杖をつくと、まだちょっと意味ありげにニヤつきながら 「深月くんってさ、案外、鈍いっていうか、無防備だよね」 「どういう意味ですか?それ」 「まあ、いいけど。じゃあ、頑張ってね」 岩館はひょいっと椅子から立ち上がり、こちらの肩をぽんぽん叩いて立ち去り際に 「佐々木ってああ見えて、どっちもいけるよ?深月くん、美形だからたぶんターゲットだね。その気ないなら気をつけてね」 拓斗は唖然として、去って行く岩館を見送った。一瞬、何を言われたか分からなかった。だが、意味が分かってくるにつれ、じわじわと驚きが押し寄せてくる。 ……え?ちょっと……待って。それって…… どっちもいけるってどういう意味だ?ターゲットって。え?俺が? あの爽やか王子様風イケメンを絵に描いたような佐々木が。どっちもっていうのは、つまり、両刀ってことなのか? ……え。……ええええ~?? それじゃあ、昨夜の妙に親密な距離感も、お口あーんも、朝起きがけに頬にキスされたのも、ただのスキンシップではなく、意味があるのか? 「や。嘘だろ……」 「ね、そこ陣取って一人で百面相してないで、作業終わったんならどけてくれるかな?」

ともだちにシェアしよう!