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恋を失う24
岩館の言葉に、拓斗は手を止めて、ひょいっと斜め上を見上げた。
「へ?俺にですか?」
「そ。あのさ、佐々木くん、昨日と同じスーツ着てるよね?ネクタイだけ替えて」
うわぁ…さすが社内でも人気のモテ男だよ、目ざといなー…と思ったが、拓斗はしらばっくれて小首を傾げた。
「あれ?……同じでした?」
途端に岩館はにやぁ…と笑って、肩をつんつんつついてきた。
「とぼけるんだ?あのネクタイって、深月くんのだろ」
拓斗は岩館の目を見つめて、ぱちぱちと瞬きした。本当に目ざとい。誰のネクタイかなんて分かるのか……。
「とぼけるのは、何か深い意味でもあるわけ?昨夜、飲みの後で君んとこに泊まったんだろ?佐々木くん」
にやにやしながら図星をさされ、拓斗は苦笑した。
「なんだ。そこまで気づいてたんなら、俺に聞かないでくださいよ。泊めましたよ。佐々木さん、いい感じに酔っ払って、強引に俺のアパートに来ちゃったので」
「あいつ、酒癖悪いからねぇ」
岩館は肩を揺らしてクツクツ笑っている。
「迫られたり、しなかった?」
「へ?誰がですか。俺、男ですけど」
岩館は、ちょっと探るような目になり
「ふーん。その感じだと、どうやら無事だったみたいだね」
「当たり前です。普通に部屋に泊めただけですから」
岩館は背もたれに頬杖をつくと、まだちょっと意味ありげにニヤつきながら
「深月くんってさ、案外、鈍いっていうか、無防備だよね」
「どういう意味ですか?それ」
「まあ、いいけど。じゃあ、頑張ってね」
岩館はひょいっと椅子から立ち上がり、こちらの肩をぽんぽん叩いて立ち去り際に
「佐々木ってああ見えて、どっちもいけるよ?深月くん、美形だからたぶんターゲットだね。その気ないなら気をつけてね」
拓斗は唖然として、去って行く岩館を見送った。一瞬、何を言われたか分からなかった。だが、意味が分かってくるにつれ、じわじわと驚きが押し寄せてくる。
……え?ちょっと……待って。それって……
どっちもいけるってどういう意味だ?ターゲットって。え?俺が?
あの爽やか王子様風イケメンを絵に描いたような佐々木が。どっちもっていうのは、つまり、両刀ってことなのか?
……え。……ええええ~??
それじゃあ、昨夜の妙に親密な距離感も、お口あーんも、朝起きがけに頬にキスされたのも、ただのスキンシップではなく、意味があるのか?
「や。嘘だろ……」
「ね、そこ陣取って一人で百面相してないで、作業終わったんならどけてくれるかな?」
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