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それは違う2
買ってきたおにぎりを頬張り、ペットボトルのお茶で流し込む。
食べ終わると、拓斗はほぉ……っと大きく吐息を漏らした。
休憩時間が終わったら、きっちり切り替えよう。反省はもちろんするが、このまま落ち込んだ気分を引きずると、次の大きなミスに繋がりかねない。
1人になりたかったのもあるが、ここを選んだのはそれだけじゃない。忙しくてなかなか進まなかった専門的な勉強を、再開しようと思ったのだ。この第3資料室には、社員研修用のファイルがある。
拓斗はソファーから立ち上がって、一番奥の棚のファイルから調べ始めた。
新人研修の時に使った資料は、社外秘と判子を押されていたが、初歩的な内容なのでコピーが各自に配られている。今見たいのは、それよりもう少し専門的な資料だ。
ファイルの文字を一冊ずつ確認しながら、目的の物を探す。背伸びして、もう一段上のファイルを取り出そうとした時、急に視界が少し暗くなった。
……え……?
ハッとした時には、もう手首を掴まれていた。不意打ちで何かが顔に迫り、唇に押し付けられた。
「っ、」
キスされたのだと分かり、焦ってもがきながら顔を背けようとするが、ものすごい力で手首を握られ、逆に引き寄せられた。
弾みで、棚のファイルが倒れて、床にバラバラと落ちる。
「んっ、や、っやめろ、」
顔を背けようとして更に追い詰められる。そのまま奥の壁まで押されて、手首を縫い付けられた。もう一方の手で、相手の身体を押し戻そうとするが、脚の間に膝を入れられ全身を押し付けるように壁に押さえ込まれた。
舌が無理やり侵入してくる。
拓斗は苦し紛れにそれを噛もうとした。
相手はビクッとして、唇を唐突に離す。
「あなた、抵抗し過ぎ」
囁かれて、拓斗は目を見開いた。
苦笑しながら自分を睨んでいるその顔は……。
「っ、修平、」
「そんなに拒むなよ。キス、好きでしょ?」
突然の暴漢は修平だった。
安堵に全身の力が抜ける。
目に涙が滲んでしまった。
「しっ、信じらんない……こんな、」
「気づいてなかったのか。本気で暴れるから、こっちが焦った」
悪びれない様子でそんなことを言う修平に、正直めちゃくちゃムカついた。
ビックリしたのだ。
怖かった。
今もまだ、膝がガクガクしている。
「ごめん、驚かせて」
ちっともごめんなんて思っていない声でそう囁くと、修平は指を伸ばして頬をそっと撫でてきた。
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