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それは違う10
デスクに戻って業務の続きを再開した。
2度立て続けに出して、正直疲労困憊だった。
震える指先で発注一覧を作成し、アウトプットする。もう約束の時間だ。来客用のお茶を準備しないと。
拓斗はふらふらと立ち上がった。まだ全身が甘怠くて熱っぽい。
給湯室に行くと佐々木がいた。
「あ。お帰り……なさい、佐々木さん。早かったですね」
「ああ。ただいま。こっちは順調だ。例の新商品の受注な、うちが独占で取れたよ」
「わ。おめでとうございます」
「来週からちょっと忙しくなるけどね。頼りにしてるよ、深月くん」
佐々木は爽やかに笑って、肩をぽんぽんっと叩いてくる。拓斗はにこっと笑って頷いた……つもりだった。
「あれ?おまえ、どうした?」
怪訝な顔で覗き込まれ、拓斗は首を傾げる。
「あ。予定が延びちゃって、ハイゼンさんこれからなんです」
「いや、そうじゃなくて。おまえ、熱でもあるんじゃないか?」
佐々木の手が伸びてきて、おでこにあてられた。ひんやりした感触にビクッとする。
「あ……」
「熱は……ないのかな?でも顔が赤いよ、深月。それに目がぼやーっとしてる」
佐々木はますます顔を近づけてくる。
……っち、近いです、って。
なんだかクラクラする。身体が急に重くなる。
ガクッと膝から力が抜けて、拓斗は焦って目の前の佐々木に縋りついた。
「あ、おい」
そのまましゃがみ込みそうになるのを、佐々木がガシッと掴んでくれた。
「おい、深月?大丈夫か?」
「……っ、すみません、ちょっと……立ちくらみ…かな……」
佐々木は腕に力を入れて、しっかり抱え直して、給湯室の奥のパイプ椅子まで連れて行ってくれた。ドサッと腰をおろし、拓斗は額を押さえて項垂れた。
「医務室、行くか?それとも救急車、」
「や。そこまでじゃ、ないです。このまましてたら、治まりますから」
医務室も救急車も困る。この身体の不調の原因は分かっているのだ。それは、困る。
「でも」
「ほんと、大丈夫です。貧血かも」
佐々木は、はぁ~っとため息をつくと、その場にしゃがみ込んで
「おまえ、細いからなぁ。ちゃんと食べてるか?貧血なら、鉄分だ。レバーとか、牡蠣とかしじみ。あと緑黄色野菜もな」
拓斗は苦笑して
「苦手です、どれも。大丈夫、サプリメント飲むんで」
佐々木は何故かちょっと不思議そうな顔をして、まじまじと見つめながら顔を近づけてきた。
「おまえ……なんだか……」
「え……?」
「いや……何でもない」
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