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それは違う11

佐々木は何かを振り払うように頭を振って立ち上がった。 「飲み物、買ってきてやるよ。おまえ当分、コーヒーは禁止な」 「え?でも」 「コーヒーは貧血によくないんだよ。俺のばあちゃんが言ってた。野菜ジュース、飲みやすいのあるから、コンビニで買ってきてやる」 言いながら、給湯室を出て行こうとする佐々木を慌てて呼び止めた。 「あっ、佐々木さん、もうハイゼンさん来るから」 佐々木は振り返り、あーっと言う顔をした。 「そうか。じゃあ、」 「俺、買ってこようか?」 不意に、給湯室の入り口から岩館がひょいっと顔を出す。佐々木は怯んだように一歩後ずさった。 「なんかいいムードなんで、声掛けそびれてたんだよね。野菜ジュースだろ?ちょっとコンビニ行くつもりだったから、ついでに買ってきてやるよ」 「いや、俺が行く。オススメのがあるんだよ。岩館、悪いけど、深月の様子、見ててくれ」 佐々木はなんだか怒ったような声でそう言うと、給湯室を出て行ってしまった。 岩館は呆れたように首を竦めて、こちらを見下ろし 「なんだあれ?業者来るんじゃないのか?だから代わりに行ってやるって言ったのに」 文句を言いながらも、岩館はなんだか楽しげだ。拓斗は苦笑して 「佐々木さん……結構、人の話聞かないですよね……」 「うん。あいつは昔からそう。気遣いの人と見せかけて意外と我が道をゆくタイプね」 ふと、佐々木が昨夜漏らした岩館の話を思い出して、拓斗はじっと彼を見つめてしまった。 ……昔、命を助けられたって言ってたよな……佐々木さん。そのせいで岩館さん、視力が…… 「なに?俺がイケメン過ぎて見蕩れてる?」 岩館がにやにやしながら顔を覗き込んできた。拓斗は、ハッと我に返って目を逸らし 「言ってません、俺、そんなこと」 「たしかに君、顔が赤いよね。それに目も潤んでる。ほんとに熱、ないんだ?」 「あー……多分」 「さっきさ、給湯室来たら、君ら抱き合ってるから驚いたんだよ」 岩館の言葉に驚いて、顔を見上げた。 「大胆だなーってさ。佐々木くん、いよいよ君を口説き落とすつもりか?ってね」 「や。そんなんじゃ、ありませんっ」 「分かってるって。ムキにならない。でも君ってやっぱり……罪作りだね」 「え……?」 岩館は意味ありげににやにやしている。 罪作りって……どういう意味だ?

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