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それは違う12
「岩館さん。俺もう大丈夫なんで、仕事戻ってもらっていいですよ?」
「ま、そう言うなって。せっかくいい口実にしてサボってるのにさ」
自分もパイプ椅子を引き出してきて、どっかりと腰をおろす。狭い給湯室で、膝突き合わせて2人で座っているのがなんだかおかしい。
「貧血気味なんだ?」
「あー……っと、そうですね」
拓斗は給湯器の方を見上げた。貧血気味ではない。というか、今まで貧血なんか起こしたことはない。まだ身体の奥でじわじわと燻っている変な薬のせいだ、とは言えない。
修平のせいで、今日は帰るまでずっとこうなのだろうか。拓斗は思わずため息をついた。
岩館が身を乗り出してきた。
「君って香水、つけてた?」
「え?…いえ、つけてませんけど……」
「ふーん。甘い感じの、いい匂いするなぁ」
岩館はまた顔を近づけてきて、くんくんと鼻を鳴らし
「なんだろ。香水の匂いじゃないのか」
じ……っと目を見つめてくる。
岩館とは時々話をするが、こんな風にまともに顔を突き合わせて話したことがないから、変に緊張してきた。でも、なんだか目が逸らせない。
「深月くん、今日の君さ、妙に色っぽい気がするんだけど」
拓斗は目を見開いた。岩館の手が伸びてきて、頬に触れる。驚いてビクッとすると
「佐々木くんが手出す前に、俺が口説いちゃおうかな」
……え……なに……?
岩館は相変わらずにやついた表情だが、目がやけに熱っぽい。その眼差しに戸惑うのに、目が……逸らせない。
「俺と佐々木くん、どっちが君のタイプ?」
指先が優しく頬を撫でる。
……や……何、言ってるんだろ、この人……?
さっきから、お尻の奥の方が疼いている。まだあの薬の効果がきれていないのだ。岩館の指先が頬を撫でる感触が気持ちいい。
頭が、ぼーっとしてくる。
「あの……どっちがって、何が…?」
「佐々木くんと、俺。どっちが好き?」
……好きって?好きってどういう意味の……
「君さ、小川くんと、付き合ってたでしょ」
混乱中の頭に、岩館の意外な言葉が追い討ちをかける。拓斗はハッと息を飲んだ。
「や……あの、」
「俺、彼とは同じ営業さんの業務被ってるから。一緒に行動すること多いんだよね」
拓斗はじっと見下ろしてくる岩館の目を見ながら、内心ドキドキしていた。
それは、つまり、修平から自分のことを聞かされているという意味なのだろうか。修平は、岩館には心を許して打ち明けていた?
でもそんな話、修平から一度も聞いていない。
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