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それは違う13

修平の口から、何度か岩館の話が出たことはあった。そう言えば修平は、岩館のお洒落で華やかで社交的な点を、褒めちぎっていた。 でも、自分と付き合っていることは、会社の人間には絶対にバレるなと、たびたび釘をさされていたのだ。 その修平が、岩館に話すだろうか? 「俺ちょっと、何の話だか……。小川さんが俺のこと、なんか言ってたんですか?」 多少吃ったが、何とかとぼけてみせた。 岩館は探るような目になり、じっとこちらを見ていたが、やがて首を竦めて 「ま、いいや。勘違いならそれでも。で?もし付き合うなら、佐々木と俺、どっち選ぶ?」 「あの。それちょっと意味が分からないです。俺、男だし、佐々木さんも岩館さんも…」 「ふーん?深月は結構、頭かたい人?愛し合うのに性別なんか関係ないよねぇ」 拓斗は岩館をじと……っと睨んだ。 「それって……佐々木さんだけじゃなくて、岩館さんも、どっちもいける人ってこと、ですか……?」 「うん、俺、好きになった人が好きなタイプ」 岩館はまったく躊躇する様子もなく、あっけらかんと言って笑う。 拓斗は目を泳がせた。 「でも……でも、どうして俺?絶対にからかってますよね?」 不意に岩館の手が伸びてきて、手首を掴まれた。ハッとした瞬間、ぐいっと引き寄せられ、彼の顔が一気に近づく。 「君って無自覚?鈍感くんだね。その眼鏡、度が入ってる?」 言われて気づいた。普段は眼鏡をかけていないのだ。PCの作業をする時や細かい数字を扱う時だけ、度の軽いものをかけている。ぼんやりしていて、さっき外し忘れたのだ。 拓斗は無意識に、眼鏡のフレームに手をやり外そうとした。それよりも先に、岩館の指先が眼鏡をつ……っと摘む。 「キスの時は邪魔だから、外していい?」 「ストップ。そこまでだ」 不意にキツい声が降ってきて、拓斗は視線をそちらに向けた。 入り口に佐々木がいる。ものすごい怖い形相で。つかつかと近づいてきて、腕を振り上げ、岩館の頭をポカっと思い切り叩いた。 「っっって~~~っ」 岩館が叫んで頭を抱える。 「何やってるんだ!こんなとこで!」 「おまえー。痛いよ!今、思いっきり叩いただろ!」 「あったりまえだ!拓斗を勝手に口説くな!」 「はあっ?俺が誰を口説こうと勝手でしょ?なに、その拓斗って呼び方。自分のモノだって言いたいのかよ?」 2人して言い合いをしている奥で、拓斗は首を縮こめ顔を引き攣らせた。 ……や。ちょっと、2人とも、やめて。ここ、会社だし。 さっきから、頭がぼーっとしているのだ。 いろいろと2人に突っ込んでみたいのだが、上手く言葉が見つからない。 ただ、仕事中の職場の給湯室で繰り広げていい会話じゃない、ということだけは分かる。

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