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それは違う14
「佐々木、こんなとこで何してる。ハイゼンの社長来てるぞ。受付から連絡だ」
同じ課の三浦さんが、給湯室を覗き込んできた。その言葉に、佐々木と拓斗はハッとして顔を見合わせる。
壁の時計を見ると16時。約束の時間だった。
「あー、すみませんっ」
「第1応接室な。とりあえず押さえといて通してもらったから」
「ありがとうございます」
三浦は首を竦めて笑うと、姿を消した。
「すみません、佐々木さん、俺すぐ、」
「いい。おまえ、まだぼやっとした顔してるし。これ飲んで休んでろ」
佐々木がコンビニの袋から出した野菜ジュースの紙パックを、ポンっと投げてよこす。
「で、おまえももう戻れ。仕事中だろ」
そう言って、岩館の腕を掴んで立ち上がらせると
「少し落ち着いたらデスクに戻って、今日先方からもらった仕様書、目通しておいてくれ」
佐々木は片目を瞑って微笑むと、岩館を引きずって給湯室から出て行く。
「すみませんっ。ありがとうございます」
一人残されて急に静かになった給湯室で、拓斗は額を押さえてため息をついた。
……今日はもう俺、いろいろとダメダメだ。
信頼回復の為に頑張ろうと決意したばかりなのに。何をやってるんだろう。
床にのめり込みそうなほど落ち込みながら、佐々木がくれた野菜ジュースのパッケージを見つめる。鉄分補給の文字がデカデカと書かれたパックにストローを挿して、拓斗はちゅうちゅうとジュースを飲み、顔を顰めてまたため息をついた。
「佐々木さん。本当にすみません。俺、役立たず過ぎて……」
「気にするな。体調が悪い時は仕方ないさ。それより、発注一覧ありがとうな」
佐々木は隣の席でコーヒーを啜りながら、今日新しくもらってきた資料を一枚ずつチェックしている。
「ハイゼンの社長がさ、おたくの深月さんは前の担当より鬼だって、嘆いてたぞ」
拓斗は驚いて、仕様書から目をあげて佐々木を見た。
「え?そんな、キツかったですか?俺の納期設定って」
「うーん……俺も一応チェックしたけどな。12日~15日までの連続納期。あれってハイゼンの設備だとかなりギリギリのフル稼働だよな。社長、また徹夜コースだって苦笑してた」
「うわ。そうなんだ。ダンボールの方の設備って、一日上限500だからまだ全然いけると思ってました……」
佐々木はデスクに肘をついて、ちろっとこちらを横目に見た。
「それが鬼。うちの仕事だけじゃないからな。社長、この仕事よそに取られたくなくて、結構ギリギリの条件出してきてるし」
「そうか……じゃあ俺、これまでも結構ひどいことお願いしてたかも……」
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