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それは違う15

凹む拓斗に、佐々木は笑いながら腕を叩いてきて 「いや。課長には高評価だよ、おまえの仕事の仕方は。思い切りがよくて意外と大胆だ。ハイゼンの社長も泣き入れてくるけど、あの人もあれで狡い所あるからね」 「はぁ……」 そんなつもりはなかったけれど、意外と大胆なのか、自分は。拓斗は首を傾げながらジュースをひと口啜った。 「おまえ、それまだ飲み終わってないのか?」 「や、だって、野菜……苦手で……」 「でもまあ、だいぶよくなってきたよな。浮腫んだみたいになってたの、随分スッキリした」 覗き込んでくる佐々木に、拓斗は少し身を引いた。 「すいません。ご心配かけて。もう、大丈夫です」 「岩館に、キスとかされなかったか?」 佐々木が急に声をひそめる。拓斗はちらっと周りを確認してから 「されてないですって。もう……佐々木さん、さっきのあれ、」 「ごめんごめん。給湯室であれはちょっとないよな。そうだ。岩館にさ、久しぶりに夕飯誘われたんだ。おまえも誘えってな。今夜、仕事終わってからどうだ?美味いレバー食わせる店、連れてってやるよ」 今夜、と言われてドキッとした。 今夜は……先約がある。 パソコンの隙間から、そっと修平の席を見てみた。……彼は席を外している。 「あ……俺、今日はちょっと用事あるんで。また今度、誘ってください」 「そっか……。残念。じゃあ次の機会にな」 「はい」 佐々木はあっさりと引き下がり、書類を持って部長の席に行ってしまった。 拓斗は小さくため息をつくと、胸の辺りを手で押さえる。 昼間、あんな酷い扱いをされたのだ。修平の誘いなんか蹴って、佐々木たちと一緒に行った方がいいに決まっている。 そう思っているのに、即座に断っていた。 ダメなのだ。酷い奴だと分かっていても、まだ修平のことが好きで仕方ない。 思考と感情がバラバラで苦しい。 矛盾している自分の心が辛い。 その後、体調はようやく普通に戻ってきて、いつもより業務にも集中出来た。思っていたよりも早く仕事を切り上げられて、拓斗はほっと胸を撫で下ろした。 佐々木は30分ほど前に「お先な。あまり無理するなよ」と声を掛けてくれて、岩館と一緒に帰って行った。 デスクの上を片付けながら、もうすっかり冷めた紅茶の残りを飲み干す。その拍子に、パソコンの隙間から修平の頭が見えた。 タイミングよく、修平が顔をあげる。 目が合った。 修平はうっすらと微笑んで、そろそろ帰るよと、目配せをしてきた。

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