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それは違う16
自分より20メートルぐらい先を、修平が歩いている。それは付き合っていた頃から変わらない習慣だった。
本当は、肩を並べてお喋りしながら一緒に帰りたい。でも、修平はアパートのすぐ近くの路地まで、ああして先に歩いて絶対に足を止めてはくれないのだ。
会社から30分ぐらいの道のりを、修平の見慣れた背中を見つめながら黙々と歩く。
公園の横の薄暗い路地に入った所で、珍しく修平が足を止めてこちらを見ていた。
「おいで」
修平が両手を広げて首を傾げる。
拓斗は走り出していた。
一気に駆け寄って、腕の中に飛び込んでいく。
抱き留めてくれた修平の腕が、包み込むように抱き締めてくれる。
それだけで、嬉しくて心が震えた。
さっきまで、どうして佐々木たちの誘いを断って冷たい修平の後ろ姿を追いかけているんだろうと、心は悶々としていたのに。
鬱々とした気持ちは呆気なく霧散していく。
修平に「おいで」と優しく言ってもらえただけで。
「ふふ。ここだと誰かに見られるな」
修平の声が、会社にいた時より柔らかい。
拓斗は腕の中で顔をあげた。
「アパート通り過ぎて向こうの大通り、大きなコンビニが出来たんだ。さっき行きそびれたから、そっち寄ってから帰ろう」
頷くと、腕を離された。寂しいな…と思いながら並んで歩き始めると、修平の手が伸びてきて手をきゅっと握ってきた。
驚いて見上げると、修平は柔らかく微笑んで
「昼間はごめん。酷くして」
きゅっきゅっと手を握られて、泣きそうになる。修平の表情も声も、まるで付き合い始めたばかりの頃に戻ったみたいだ。
拓斗はおずおずと手を握り返した。
徒歩10分ほどの、コンビニまでの道のりが、ふあふあと地に足がつかない感じで、しみじみと幸せだった。
コンビニで飲み物とおにぎりとおでんを買った。修平がトイレに行っている隙に、下着の替えをそっと買い足す。
今夜は泊まらないと決めていた。
アパートにはちびがいる。
何があるか分からないから、朝、固形のエサは多めに出してやって、水もたっぷり用意してあげた。でも、1日中あの部屋で寂しく過ごしているちびを置いて、泊まる訳にはいかない。
昼間、資料室での行為で汚された下着は、トイレで熱の始末した後で事務所を抜け出して、コンビニで買って履き替えている。これは一応の用心の為だ。
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