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それは違う17
修平が鍵を差し込み玄関ドアを開けると、懐かしい匂いがふわっと鼻を擽った。
久しぶりの修平の部屋の匂いだ。
「適当に座ってて」
修平は奥の和室でネクタイを外し、スーツの上下を脱いで椅子の背もたれに引っ掛けると、ワイシャツの袖を捲りながら台所の方に消えた。
拓斗はちょっとの間、ぼんやりと部屋を見回していたが、はっと我に返って修平のスーツをハンガーに掛け直す。ついでに自分もネクタイを外し、スーツの上着を脱いで、空いているハンガーに掛けた。
台所の更に奥、洗面所の方で水音がする。
このアパートは築年数の古い昔風の建物で、和室ひと間の狭い部屋だが、洗面所と脱衣所と風呂場は、部屋の広さとはアンバランスにかなりスペースを取ってある。拓斗のアパートと違って、脱衣所と風呂場が独立した部屋になっているので、下着や日常着、タオルなどは脱衣所のクローゼットに収納されているのだ。その分、和室は丸々使えて、それほど狭さを感じない。
修平は帰ってくるとまず、洗面所で顔を洗って下着も全て替えて部屋着になる。しばらくここには来ていなかったが、修平の日常習慣は全部前のままだ。……当然だけど。
ワイシャツとスラックスの姿で、拓斗は所在なげに古いソファーに腰をおろした。
修平は物を増やすのが嫌いだから、部屋の中の様子は何も変わっていない。
そのことにちょっとホッとする。
台所を歩き回り、バタバタと冷蔵庫を開け閉めする音がして、シンクの水音が聞こえる。
何か手伝おうかと腰を浮かしかけると、襖が開いて修平が姿を現した。手には皿などが乗っている大きなトレーを持っている。
「あ、俺も、」
慌ててトレーを受け取ろうとすると
「いいよ。テーブル、セットしてくれる?」
言われて気づいた。部屋の隅の壁に立て掛けてある折りたたみ式の簡易テーブルだ。
拓斗は急いでそれを持ってくると、4本の脚を立ち上げ部屋の真ん中に置いた。
「サンキュー」
修平はトレーをテーブルの上にいったん置くと、また台所に引き返した。
コンビニで買ったおでんはキチンと深皿に移し替えられている。サラダも白い器に綺麗に盛りなおされていた。買った器でそのまま食べてしまう自分と違って、修平はこういう所が変にマメなのだ。
拓斗はトレーから皿をテーブルにひとつずつ移動した。並べ終わると、台所から修平が箸や飲み物を小さなトレーに乗せて戻ってきた。
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