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それは違う33
修平がムクっと身体を起こす。
「仔猫…?……ってどういうこと?それ」
「アパートの俺の部屋、仔猫がいて。だから昨夜は帰るつもりで、俺」
修平は眉をひそめた。
「それ、あなた、猫飼ってるってこと?じゃあ、餌とか」
「多めに……水も……でも、1回帰ってあげなくちゃ。きっと寂しがってる。それにきっと今日の夜までエサ、もたない」
修平はベッドヘッドに置いてあるスマホを取り上げ、時刻を確認すると
「会社の始業時間まであと1時間半ある。何してんの?起きてさっさと服着て」
言いながら、ベッドから降りた。
「え……?」
「え?じゃないだろ。バイクで連れってやる。いいから早く準備」
促されて我に返り、拓斗は慌ててベッドから降りた。修平はさっさとワイシャツを着て、スラックスに足を通している。
拓斗も、昨日着ていた服を探した。ワイシャツとスラックスは、壁際のデスク用の椅子にシワにならないように広げて掛けてあった。
「あなた、部屋に戻ったらもう一度着替えたらいい。とりあえず急いでそれ着て」
修平は昨夜の姿見を見ながらネクタイを結び、上着を羽織って髪の毛を整えている。
姿見が目に入った途端に、昨夜の淫靡な記憶が押し寄せてきて、拓斗は顔を強ばらせた。
でも今は、そんなことを考えてる場合じゃない。大急ぎで自分も服を着て、髪の毛を撫でつけた。先に身支度を終えた修平が、ハンガーに掛けていた上着を投げてよこす。
「準備OK?あ、あなたのメットはそれ使って」
部屋の隅に置いてある予備のヘルメットを指差すと、修平はさっさと玄関に向かう。拓斗はヘルメットを抱えて、慌てて後に続いた。
「ちょっと近道飛ばすから、しっかり捕まってて」と言われて、拓斗は修平の身体にしっかりしがみついていた。タンデムは久しぶりで、30分かからずに自分のアパートに着いてバイクから降りると、股関節がちょっとガクガクした。
階段を駆け上がり、部屋の鍵を外して中に飛び込む。いつもひょこっと奥の部屋から顔を出して出迎えてくれるちびが、顔を出さない。
不安が一気に込み上げてきて、拓斗は急いで部屋のドアを大きく開いた。
「にゃーん……」
か細い声が聴こえる。どこだ?と見回すと、部屋の1番奥のロフトから、ちびが顔をのぞかせている。すぐ後ろにいる修平に警戒してか、降りてこようとはしない。
「ごめんね、ちび。昨夜、帰れなくて。おいで」
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