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それは違う38
店の奥の座敷に案内されて腰をおろし、壁に貼られたランチメニューを見ながら、それぞれが店員に注文していく。
拓斗は迷わず焼き魚定食にした。一人暮らしが長くなると、こういう家庭的で美味い焼き魚の定食は、食べる機会がなかなかないのだ。
店の人間がいなくなると、三浦がにこにこしながら切り出した。
「そうだ。深月くん。本社の営業研修決まったそうだな。おめでとう」
「あ。ありがとうございます」
知っていたのは三浦と佐々木と山田だけだったらしく、他の3人は驚いた顔をしている。一斉に皆に注目されて、なんだか面映ゆい。
「え。早くないっすか?深月くんって入社2年目ですよね」
「ふふん。うちの深月は優秀だからね」
何故か佐々木がドヤ顔をする。
「や。朝からそれ聞かされて、すっごく緊張してますよ。まだまだ覚えることいっぱいで、俺には早すぎますから」
「今回の推薦はうちの課長だけじゃなく、営業1課の市原課長も猛プッシュだったみたいだな。前に合同で仕事やった時に、市原課長、深月くんのことやたら褒めてたからね。うちに配属して欲しかったって」
「へえ。凄いな。営業1課の市原課長って、本社から来たんですよね。たしか、社長の身内で」
……市原課長が……。
あの人が自分を評価してくれているのは意外だった。社内でも一風変わった人物で、気分屋でムラが激しい。拓斗が共有ブースで作業をしていると、時折話しかけられたりしていたが、にこにこしてたかと思うと急に不機嫌になったりするので、どちらかと言うと苦手な上司の1人だ。
「今回の研修に選ばれたのは、深月と、隣の部の小川くんだ。小川くんはたしか、佐々木くんと同期だろ?」
三浦の口から出た名前に、拓斗はドキッとした。
……え。修平が……。一緒に…研修に?
「ええ。彼、前に1回推薦受けて、まだ早すぎますって断ってるんですよ。今回は素直に受けたみたいですね」
「うわぁ。断るなんてすごい度胸だな」
拓斗は何でもないフリをしながらお茶を啜り、皆の話を黙って聞いていた。
修平と一緒に東京で研修。
何だかすごく落ち着かない。
注文したものが運ばれてくると、みなお喋りをやめて食べることに集中し始めた。
……修平と2人で、東京に……。
恐らく入社研修の時のように、会社の出張用の寮に泊まることになる。あそこの寮は4人部屋で、入社研修の時は、同じ事業部の人間が相部屋だった。今回もあの寮に寝泊まりするなら、5日間、修平と同じ部屋になるだろう。
嬉しいけれど複雑だった。
4人部屋ということは、他の事業部の見知らぬ2人とも相部屋になるということだ。
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