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それは違う40
慌ててポケットから財布を出して駆け寄ろうとすると、岩館は手を振り
「いいよ、俺の奢り。あ、そうか、君ってコーヒー禁止だったよね。じゃあこれ、飲んでみてよ、美味いから」
岩館はさっさとペットボトルのジュースを2本買うと、ぽんっとこちらに放って寄越した。かろうじて受け止めてジュースを見る。
「……みっくすふるーつ」
「そ。あんまり甘くなくてさ、懐かしい味がするやつ。あっち、行こうぜ」
岩館が指差しているのは、共有スペースにある休憩室だ。昼休み直後だからか、人影はなかった。
ガラスのスライドドアを開けて先に入った岩館が、ちょいちょいと手招きをする。昼休み直後にまたここで休憩するのは気が咎めて、拓斗は辺りをそっと見回しながら、中に入った。
「あの……岩館さん、俺、すぐ戻らないとなので」
「分かってるよ。でも君、真っ青な顔してる。ちょっとここに座ってジュース飲みなよ」
先にソファーに腰をおろして、にこにこしながら隣をパシパシ叩く岩館に、拓斗はぎこちなく微笑み返して腰をおろした。
ペットボトルの蓋を開けて、ごくごくごくっと一気に半分ほど飲んだ。
甘い。でも、その甘さにホッとする。
「すみません。気を遣ってもらって」
「そういう場合はね、すみませんじゃなくてありがとうでいいよ。少し、落ち着いた?」
「はい……。ありがとうございます」
岩館はソファーの背もたれに腕を乗せながら、自分もペットボトルを煽って
「やっかみ。嫉妬。あいつら2人とも内勤長いからね。君にくだらない嫉妬してるだけだよ」
「はい……」
「嫉妬って漢字は女偏だろ?女の方が嫉妬深いって一般的に言われてるけどさ。男の嫉妬も結構怖いよ。特に仕事の出世絡みやプライドに関わることだと、男の方が根が深くて陰湿だからね」
「そう……なんですね……」
岩館はそれきり黙り込んだ。拓斗も何をどう言っていいのか分からず、黙ってジュースをちびちび飲んでいた。
「君ってさ。妙に庇護欲掻き立てられるね」
「え……?」
「それでいて、反対に虐めたくなるっていうか…いじりたくなる?」
拓斗は目を丸くして、岩館をまじまじと見つめた。
「や。何ですか?それ」
岩館はニヤリと笑いながら、背もたれに置いた手で髪の毛にそっと触れてきて
「ん?つまり、俺が君を放っておけない理由?」
疑問形でそんなことを言われても、全然意味が分からない。つんつんと襟足の毛を指先で引っ張られて擽ったい。
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