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それは違う42

自分のデスクに戻り、しばらくは脇目も振らずに業務に没頭した。 研修の話が出たおかげで、通常の業務以外にも、不在のあいだ佐々木のサポートをしてくれる山田に、今抱えている仕事の引き継ぎをしておかなければいけないのだ。 この仕事を始めたばかりの時、部内の移動や部署の配置移動は急に決まることがあるから、自分にしか分からない仕事の仕方はするなよと佐々木からアドバイスを貰っていた。 そのおかげで、自分だけで抱え込んでしまっている業務はそんなにはない。それでも、発注や納品に関わる部分は小さなミスが大きなトラブルになりやすいので、慎重に引き継ぎしておかないといけない。 「ただいま」 出先から戻った佐々木に声をかけられて、拓斗はパソコンの画面からようやく目を離した。 集中しすぎて時間を忘れていた。時計を見ると18時。3時間以上、夢中で作業していたらしい。道理で目がじんじんしている。 「お帰りなさい。お疲れ様です」 「深月~。おまえ目が赤いよ。ちょっと休憩しろって。これな、前に言ってたドーナツ屋のシナモンロール」 そう言って佐々木が、ドンッと机の上に置いたのは細長い化粧箱だ。覗いてみると甘い香りのするドーナツが課の人数分以上並んでいる。 「うわ。美味そうですね」 途端に腹の虫がグゥっと鳴って、拓斗は赤くなりながら腹を押さえた。 「くくく。正直な腹だな、おまえ。飲み物いれて休憩ルームに行くか。あ、山田くん、そろそろ手空きそうかな?」 「あー。すみません、佐々木さん。あと30分待ってもらっていいですか?これだけ今日中に仕上げたいんで」 「分かった。焦らなくていいからな。深月、行くよ」 促され、拓斗は慌てて立ち上がった。 「山田くん。みんな帰ってきたら、これ差し入れだって伝えてくれる?」 「分かりました。いつもありがとうございます」 佐々木は、2人分のシナモンロールをペーパーで摘んで、個包装用の小さな袋に入れると歩き出す。拓斗も急いで後を追った。 給湯室で2人分のコーヒーをいれて、トレーに乗せて休憩ルームに向かう。 佐々木は先に来て、一番奥のブースを確保していた。 「お。ありがとう」 トレーからテーブルの佐々木の前にホットコーヒーを置く。自分の分も向かい側に置いて座ると、佐々木がカップの中をひょいっと覗き込んで 「コーヒー。大丈夫なのか?おまえ、貧血は」 「大丈夫です。ちゃんとサプリメント飲んでますから」 佐々木は首を竦め、それ以上は突っ込んでこなかった。持ってきた紙袋を開いて 「ひとつ取れよ。疲れた身体にしみる甘さだ」 「はい。じゃあ、いただきますね」 拓斗は指先でひとつつまみ上げた。シナモンのいい香りが食欲をそそる。

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