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それは違う48

腕を前に回して修平の腰に抱きつく。 バイクは自分では乗らないから、初めて修平にタンデムに誘われた時は、どうやっていいのか分からず恐る恐るだった。 「変に遠慮されると後ろが不安定だから、もっとガッチリ掴まれよ」と言われて、ぴたっと張り付くように彼の身体を後ろから抱き込んだ時、その密着感がすごく幸せに感じた。 まだ付き合い始めの頃で、キスもしていなくて、恋人というよりは趣味の合う友人という感じだったから、一気に距離が縮まった感じがして嬉しかった。 今朝はアパートのちびのことが心配で、そんなことを感じている余裕がなかったが、こうして後ろから抱きついていると、しみじみと嬉しさが込み上げてくる。 アパートの部屋について、ドアを開けると、軽い足音がして奥の部屋からちびがひょこんっと顔を出した。少し警戒しながらこちらを見ていたが、拓斗の後ろにいるのが修平だと分かると「にゃーぉ……」と鳴きながら、とことこ近づいてくる。 どうやらちびは、修平の存在をすっかり受け入れたらしい。 拓斗が屈んで抱き上げるより先に、修平がしゃがみ込んでちびに手招きをする。 ちびは戸惑いもせず、修平に歩み寄った。 「留守番、お利口だったな」 修平は優しく語りかけながら、ちびの頭を撫でた。ちびはゴロゴロと喉を鳴らしながら、自ら頭を修平の手に擦り付けて甘えている。 「ただいま。今、ご飯出すからな」 拓斗は靴を脱いで修平の脇をすり抜け、台所に向かった。 途中で、コンビニに寄って弁当と飲み物を買い、まだ開いているドラッグストアにも寄ってもらって、ようやく猫用の缶詰を買えた。 ちび専用の皿に出してやって、飲み水の皿も新しくしてやる。 「ほーら、飯だってさ。来いよ」 修平も靴を脱いであがると、ちびを呼びながら近づいてきた。 「こいつの名前、何だった?」 「え?えーと……ちび」 「ちびか。ちょっと芸がない名前だな。メスだよな?」 はぐはぐと食べ始めたちびを、並んでしゃがみこんで見守りながら、修平が聞いてくる。 そういえば佐々木とも、ちびの名前の話になった。佐々木は酔っていて、自分の名前をゴリ押ししようとしたのだった。 拓斗が思い出し笑いをすると、修平はちょっと怪訝な顔をして 「琥珀(こはく)か、翡翠(ひすい)」 「え……?」 「こいつの名前。目の色からすると、翡翠かな」 「それって宝石の?すごい。お洒落な名前だ」 「子どもの頃、飼ってた猫が、琥珀と翡翠だった」 修平は呟いて、ちょっと遠い目をした。

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