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それは違う49
「意外だな。修平、猫飼ってたなんて言ったことなかったから」
「小学校の頃だ。それ以降はペットは飼ってない。それより…」
修平はちびの頭を撫でてから立ち上がると
「洗面所、貸してくれる?着替えたい」
「あ、そっか。ごめん」
拓斗は慌てて立ち上がると、奥の部屋に向かった。
「これ、使って。タオル」
奥のクローゼットからまだ使っていないフェイスタオルを持ってきて修平に渡す。
「さんきゅ」
修平は薄く微笑むと、洗面所に消えた。
ちびはすっかり食べ終えて、満足そうに毛繕いを始めている。
拓斗は再びしゃがみ込むと
「おまえの名前。翡翠だって。ヒ、ス、イ。綺麗な名前だよな」
「にゃー……」
ちび改め翡翠は、キョトンとした顔でこちらを見上げて鳴いた。その目が照明を反射して緑がかって見える。
「なるほどな。そっか、その目の色なのか。翡翠ってたしか、綺麗な緑色だったよな」
「にゃーん……」
拓斗は翡翠を抱き上げると、顔を近づけてにこっと笑いかけ
「ひ、す、い。おまえの名前だよ。覚えたか?」
「みゅう~……」
翡翠は後ろ脚をもじもじさせて鳴くと、拓斗の鼻の先をぺろぺろ舐めた。
「ふふふ。擽ったいよ。あ、そうだ」
拓斗は翡翠を抱っこしたまま、奥の部屋に行った。
修平が顔を洗って着替えをしている間に、自分もスーツから着替えないと。それに、修平が泊まるなら新しいシーツも用意しておいた方がいい。寝るならマットレスも敷いておかないと。
拓斗は翡翠を床におろすと、急いでスーツを脱いでタンクトップとトランクスだけになった。先日佐々木が来た時には出しそびれたマットレスを取りに、部屋の奥のロフトの階段をあがる。
翡翠は、ロフトの奥の自分の寝床が荒らされるとでも思ったのか、トコトコと拓斗の横を駆け上がってきて
「みゃう~」
まるで通せんぼするように顔の前にでんっと座って鳴いた。
「違うよ。これ、マットレス。取るからちょっと退けててよ」
「にゃ~」
立て掛けてあるマットレスを取ろうと腕を伸ばすと、翡翠はその腕の上にちょこんっと座ってしまう。
「こら。邪魔するなって」
「何やってるんだ?」
下から修平の声がする。振り返って見下ろすと、着替えを済ませた修平が怪訝な顔でこちらを見上げている。
「あ。寝る用のマットレス、取ろうと思って。ここに仕舞ってるから」
「要らないよ。ベッドで寝ればいい」
修平の答えに、拓斗はちょっと驚いて黙り込んだ。
……え。それって、一緒にあのベッドで寝る、ってこと?
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