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それは違う56
「うっとおしい……。うーん。どうかな?ちょっと重いな…とは感じていたけど」
「重い……。だから、あんまり笑ってくれなくなった?会いたいって言うの、俺ばっかりになってたよね」
修平の腕が肩に伸びてきて、ぎゅっと抱き寄せられる。
「あなたと俺では、たぶんそういう部分が違うんだね。俺は相手に合わせて自分を変えるのは苦手だ。あなたは相手に合わせすぎる」
分かっている。
修平に言われなくてもそんなこと。
自分が人の顔色や機嫌を気にし過ぎるたちだってことは。でも、分かってたって無意識にやってしまうのだ。時々、そういう自分がすごく嫌になるけれど。
「別れるって俺が言った時……修平、どう思った……?」
声が掠れてきた。目の奥が熱い。
修平はちょっと黙ってから、静かに口を開いた。
「驚いたよ。まさかあなたの方から、切り出されるとは思っていなかったんだ。でも」
修平はこめかみにそっと唇をあててきて
「その方がいいのかな、って思ったよ」
拓斗は横目で修平の目を睨んだ。
「どうして?修平は、やっぱり俺と、別れたかった?」
「別れたいと俺から思ったことはない。でもあなたは、その方が自由になれるかな?って」
拓斗は顔ごと修平の方に向けて目を見つめた。修平の目には温度がない。その穏やかな瞳からは、何の感情も読み取れない。
「自由って、なにそれ。そんなもの、俺は別に、」
修平の手が伸びてきて、人差し指で唇をそっと押さえる。
「付き合い始めた頃、あなたはよく笑ったしいつも楽しそうだった。でも最近は、すごく辛そうで苦しそうに見えた」
拓斗は思わず顔を歪めた。
自分でもそれは感じていたけれど、修平が気づいているなんて思わなかった。
気づいていたなら何故……修平は冷たい態度をし続けたんだろう。別れたいと思ってなかったくせに。
修平の言っていることは、分かるようでよく分からない。
「修平は、俺のこと、好き……?」
思い切って聞いてみる。
修平の本心が知りたい。
自分だけ空回りしてるみたいな状態は辛い。
修平は指先で唇をゆっくりなぞる。
伏し目になっている彼の、きゅっと切れ上がった目尻を、拓斗はせつない想いで見つめた。
「好きじゃなかったら、あなたはどうするの?」
思わずカッとなった。
そういう答えが聞きたいんじゃない。
質問に質問で答えるのは、ズルい。
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