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それは違う57
「修平のそういうとこ、俺は苦手だ。質問してるのは俺なのに、どうしてそんな言い方するんだよ」
言ってしまってから、ハッと我に返った。
でも零れ出た言葉は、元に戻せない。
嫌な沈黙が流れた。
冷や汗が出る。
せっかく、修平の方から歩み寄ってくれたのに、なんてことを言ってしまったんだろう。
胸の奥が冷たく痛くなる。
後悔が押し寄せてくる。
「そうだな。ごめん。これは俺の悪い癖だ」
沈黙のあと、修平がぽつりと呟いた。
拓斗は驚いて、俯いてしまった顔を慌ててあげた。
「え……」
「あなたに別れると言われた時、本当はすごくショックだった。やっぱり俺ではダメなんだなって、思ったからね」
「修平……」
「無理は続かない。お互いに」
「ねえ、修平、俺は」
修平が何を言おうとしているのか、唐突に分かってしまった。でも嫌だ。それは聞きたくない。聞いたら本当に、戻れなくなる。
「あなたと俺は別れ…」
拓斗は、身を乗り出して、修平の口を唇で塞いだ。目を開いたままの修平の瞳をじっと見つめる。修平の瞳は何か言いたげだったが、すぐに伏せられて、唇の隙間から舌を入れられた。拓斗は目を瞑って自分の舌を絡める。
修平の本音が知りたい。でも知るのは怖い。
揺れる想いを飲み込んで、修平の言葉の先に見え隠れする未来をキスで封じ込める。
自分でも気づいている。
もし、やり直すことが出来たとしても、もう元の2人には戻れないことは。
少しずつ、自分と修平の間に生まれた綻びは、自分が別れを告げた夜に、一気に破れたのだ。
キスが徐々に熱を帯びる。
何も考えたくない。
今はただ、修平と一緒にいられる悦びに溺れていたい。不毛だと分かっていても。
「それ、美味しい?」
コンビニで買ったおにぎりをもそもそと食べていると、蕎麦を啜っていた修平がこちらに顔を向けた。
「ん。美味しいよ。食べてみる?」
拓斗は食べかけのおにぎりを差し出した。修平がパクリとそれに食いつく。
「あ。具のところ、全部食べた」
真ん中がごっそり消えたおにぎりを見て、拓斗が口を尖らせ文句を言うと、修平はにやっと笑って
「ごめん。でも美味いな、これ」
自分が食べていた蕎麦をこちらに手で押してきて
「いいよ、これ食べても。交換だ」
さっきの話は宙ぶらりんのまま、キスの後で遅い夕食になった。拓斗の腹の虫がぐうっと鳴って、ムードをぶち壊しにしたのだ。
「修平、お蕎麦好きだよね」
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