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それは違う59

修平の弟には、付き合い始めの頃に何度か会ったことがある。外見はまったく似ていない。優しそうで朗らかそうな柔和な印象の男だ。 「離婚することは、もう随分前から聞いていた。相手がなかなか承知しなくて延び延びになっていたらしい。ようやく届けを出せたから、仕事も辞めて東北に戻ってきたんだ」 「そう……。大変だったんだね……。翡翠、預かってもらえたら助かるけど……ご迷惑じゃないかな」 修平は首を竦めて、食べ終わったゴミをコンビニの袋に放り込む。 「電話してみるよ」 「え。今から?」 「早い方がいいだろ」 修平は立ち上がって壁際のデスクに行くと、充電していたスマホで早速電話をかけ始めた。 拓斗はテーブルの上のゴミをまとめてキッチンに行き蕎麦の残り汁を流しに捨て、容器をゴミ箱に突っ込んでから部屋に戻った。 「……ああ。悪いな。…………うん、仔猫だ。…………そうだな、生後数ヶ月ぐらい。トイレの躾は大丈夫だ。…………そうか。じゃあ、土曜日にそっちに連れて行く。時間は何時頃がいい?…………うん、わかった。助かるよ。え?…………ああ、連れてく。そうだな、俺もそう思う。…………わかってる。じゃあな」 修平は電話を切って振り返り 「OKだ。土曜日に、連れて行こう」 傍でハラハラと見守っていた拓斗は、ほっと胸を撫で下ろした。 「いいの?ありがとう。すごく、助かる」 「昼ぐらいが都合いいらしいから車で行って、ついでにさっき言ってた板そばも食べてくるか」 「うん。修平……ありがとう」 修平は指先をくいくいっとした。拓斗がおずおずと歩み寄ると、腕を掴まれ抱き寄せられる。 「もう、眠いか?」 「え?ううん、俺はまだ。……修平はもう、寝る?」 「もう1回、したくなった。ダメか?」 抱き竦められて、囁かれて、ドキッと心臓が跳ねる。 「い……いいよ、俺も……したい」 胸に顔を擦り寄せて小さく呟くと、修平は吐息だけでふふ…っと笑った。 夜中にふ…と目が覚めて視線を巡らせると、すぐ隣で修平が寝息をたてていた。 あれから、修平は風呂場での強引さが嘘のように、穏やかに丁寧に抱いてくれた。 まるで付き合い始めの頃に戻ったように、慈しむような優しいキスから始まって、身体の感じる場所を確かめながら、舐められ弄られて、少しずつ少しずつ昂らされた。こちらが恥ずかしがったり嫌がったりすることも強要せず、大事なものを愛おしむような抱き方だった。 拓斗は嬉しくて何度も涙ぐみながら、修平のくれる心地良さの中を漂っていた。 拓斗が果て、少し遅れて修平が果てると、事後の睦みの甘やかさに包まれて、いつの間にか眠ってしまったらしい。

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