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それは違う60

修平は珍しく、この狭いベッドで一緒に寝ていた。疲れが取れないから…と、これまで1度もここで朝まで一緒に寝たことはない。 寝る前の穏やかに幸せだったひと時を思い出して、拓斗はそっと吐息を漏らした。身体中に散らばる修平に愛された跡が、じわっと甘い熱を持って疼く。 修平とセックスした後で、こんなにも心が満たされたのは、いったいいつ以来だろう。 拓斗は修平を起こさないように、そっと身体を横にして、寝顔を見つめた。 涙が滲みそうになって、瞬きで散らす。 嬉しさとせつなさの複雑に入り交じった思いで、しばらくそうして修平を見つめていた。 週末まで、山田に引き継ぎをしながらいつもの業務をこなし、帰宅すると寝るまでの間、研修用のファイルで予習をする。 そんな風にして慌ただしく日々を過ごし、あっという間に金曜日の夜になった。 三浦たちに飲みに行こうと誘われたのも断って、拓斗は残業をしていた。佐々木にあまり無理はするなと言われたが、自分の納得いく状態まで終わらせてから、仕事を山田に引き継ぎたかった。 目が回るほどの忙しさと、やってもやっても終わらない仕事。 だが、拓斗はすごく充実した気分だった。 明日は翡翠を連れて、修平と山形に行くのだ。そのことを考えただけで、気持ちが弾んでくる。 職場では顔を合わせても、修平は相変わらず他人行儀で素っ気ない。でも、喪失感に打ちひしがれていた今週始めのことを思えば、今のこの状況は幸せだった。 23時近くまで残業して、ようやく目処がたつと、拓斗は帰り支度を始めた。 ちょっと集中しすぎて頭が重い。 パソコンとラックの隙間からそっと覗くと、修平はもういなかった。 机の上を片付けて立ち上がると、拓斗はオフィスを後にした。 遠くで電話が鳴っている。拓斗はまだ半分寝たままで、手を伸ばしてスマホの場所を探った。 薄目を開けて、スマホの画面を見る。 違う。電話はきていない。 時計を見ると、もう9時過ぎだ。 昨夜は残業をして、アパートに着いた時にはもう日付けが変わっていた。 真っ先に翡翠の餌を用意してやり、途中のコンビニで買ったおにぎりと蕎麦をもそもそ食べてから、スーツを脱いだだけでベッドに倒れ込むように寝てしまったらしい。

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