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トライアングル1

不意打ちに玄関ベルが鳴った。 拓斗はガバッと身を起こす。 ……違う。電話じゃない。あっちだ。 寝ぼけていて、玄関ベルと電話の音を聞き間違えていたのだ。 ……修平だ。 電話をくれるかと思っていたが、多分、直接ここに来てくれたのだ。 修平は休日でも意外と早起きで、思いついて急にバイクや車で遠出することがよくあった。 拓斗は朝ててベッドから降りて、玄関に向かった。内鍵を外してドアを開ける。 「ごめん、ずっと鳴らしてた?俺まだ寝てて……」 言いかけた言葉が途中で途切れた。 拓斗は唖然として、ドアの外にいる男の顔をまじまじと見つめる。 また違う。修平じゃない。 ベルを鳴らしていたのは、佐々木だった。 「悪い。起こしちゃったか」 佐々木はバツが悪そうに苦笑すると 「おはよう、拓斗。おまえ、すごい頭になってるよ」 拓斗はハッと我に返り、慌てて頭に手をやる。 寝癖だ。見なくても触っただけで分かるほど、ぐしゃぐしゃになっていた。 「あ。えっと、あれ?どうして佐々木さん」 「ちょっと出掛ける予定があってね。近く通ったから、これ、差し入れしてやろうと思ったんだ」 爽やかな笑顔と共に佐々木が差し出してきたのは、駅前で人気の焼きたてパンの店の袋だった。 「おまえ、どうせまともな食事してないだろ?ここのバケットサンドな、野菜が食べやすく加工されててボリュームもあるし美味いんだ。それと野菜ジュースな。これもフレッシュの果物使ってて飲みやすい」 佐々木から受け取って、袋を覗いてみる。 たしかにすごく美味しそうだ。 「や。佐々木さん、こんな、わざわざ……あ、じゃあ俺、金払いますから」 「いいよ、それは手土産だから。それよりちょっと中入ってもいいか?一緒に朝飯食おうと思って、自分の分も買ってきたんだ」 にこっと笑って言われて、無下に断れない。 拓斗は考え込んだ。 ……朝飯……食べるだけだよな。俺、今日は予定あるって言ったし。それに佐々木さんもちょっと寄っただけって。でも…… 修平が来るかもしれない。 「ん?迷惑だったか?……もしかして……誰かいる?」 答えられないでいると、佐々木がすかさず気を遣ってきた。拓斗は慌てて首を横に振り 「あ、いえ。誰もいませんよ、俺だけです。でもあの、俺、出掛ける予定あるんで、飯食うだけになっちゃいますけど……」 「いいよ、それで。おまえ、予定あるの分かってたしな。朝飯食ったらさっさとお暇するから」

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