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トライアングル2

わざわざ自分の為に気を遣って、栄養の取れる食事を買ってきてくれた佐々木を追い返すわけにもいかず、拓斗は部屋に招き入れた。 佐々木は勝手知ったる様子で奥の部屋に行き、椅子に腰をおろして、側に寄ってきた翡翠に構ってやっている。 拓斗は洗面所に飛び込んで、大急ぎで爆発している寝癖を直した。顔を洗ってタオルで拭いている時、自分がタンクトップとトランクスだけの姿だと気づいた。 恥ずかしくて、顔がカーッと熱くなる。 てっきり修平だと思って、寝起きのままドアを開けてしまったのだ。 佐々木は髪の毛のことだけ指摘していたが、この格好を見てどう思っただろう。 洗面所には部屋着を置いていない。 拓斗は奥の部屋に行き、翡翠に構うのに夢中になっている佐々木の背後をそーっと通り抜けた。 ……とにかく、なにか、着ないと。 あいにく、クローゼットは佐々木が向いている先にあるのだ。こちら側には冬用の普段着をしまい込んだボックスケースしかない。 拓斗はしゃがみ込むと、蓋を開けてゴソゴソと中を探った。 だが、今の季節に合うような薄物はなかなか見つからない。 「なに、やってるんだ?」 上から声が降ってきて、飛び上がった。 見上げると、佐々木がすぐ後ろにきて、不思議そうに見下ろしている。 「あ、や、えっと……」 「それって冬物だろ?寒いのか?」 拓斗は慌てて蓋を閉めて立ち上がり、 「あ、えーと。ここに仕舞ってなかったかなーって思って。スウェット」 佐々木は首を傾げ、反対側を指差す。 「クローゼットはたしかあっちだろ?」 拓斗は頬がじわじわ熱くなるのを感じながら後退り 「あーはい。やっぱりあっちでした」 逃げるようにクローゼットの方へ行こうとして、佐々木に腕を掴まれた。 ハッとして振り返ると、佐々木は微笑んで 「こないだ風呂場で裸まで見てるんだ。格好なんて、そんなに気にしないくていいよ」 言われてますます顔が熱くなる。 ……気にしないとか、無理なので! 掴まれた腕をそっと振りほどこうとすると、逆に強い力で引き寄せられた。 「っ」 「細すぎるけど、バランスいい体だよな、おまえ」 顔を覗き込まれて、拓斗は目を泳がせる。 こういうのは困る。 ……すごく、困るのだ。

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