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トライアングル3

「あの、手、離してください」 そっぽを向きながらそう言うと、佐々木はあっさりと手を離した。 「飯、食おう、拓斗。自分の部屋なんだ、その格好で構わないさ」 拓斗は無言で頷くと、佐々木と一緒にローテーブルの方へ向かった。 これ以上ごちゃごちゃして、意識していると思われるよりも、早く飯を食べて佐々木を追い出したい。まごまごしてると、修平が来てしまうかもしれないのだ。 「どうだ?」 拓斗はもぐもぐと口を動かしながら、佐々木の方をチロっと見た。 「すごく、美味しいです」 「これなら、野菜嫌いなおまえでも食べられるだろ?」 拓斗は頷いた。 実際、このバケットサンドは中の野菜が生のままではなく、どれもひと工夫されていて食べやすかった。たっぷりと挟んである卵サラダが絶妙な味加減で、寝起きにはいつもあまり食べられない自分でも食が進む。 「ジュースも飲んでみろ」 そちらは色が、苦手なトマトジュースそのものに見えて、手を出しかねていた。促されて恐る恐るカップに太めのストローを指す。ひと口飲んでみて、拓斗は目を見張った。 ……あ……美味しい……。 ちらっと見ると、佐々木はちょっとドヤ顔をしている。 「意外といけるだろ?」 「びっくりしました……。見た目と味が、全然違う……」 「ここの飲んだら、他の野菜ジュースは飲めないよ」 佐々木はそう言ってにやっと笑うと、サンドイッチの最後のひと口を豪快に口に放り込んだ。 「さて。そろそろ俺はお暇するよ」 「え?」 「おまえは慌てなくていいから、よく噛んでゆっくり食べろよ」 佐々木は言いながら立ち上がり、バッグを手にそのまま出て行こうとする。拓斗は慌てて立ち上がって、佐々木の腕を掴んだ。 「え、ちょっと、もう行くんですか?」 「うん。飯食うだけって言っただろ」 たしかにそうなのだが……早く帰って欲しいとは思っていたが、あまりにも唐突すぎて、思わず引き止めてしまった。 「おまえ、誰か来るみたいだしな。さっきから時計気にしてる」 ……っ。 気付かれていたのだ。 拓斗は俯いてしまった。 「おじゃま虫は退散するよ。ごめんな、急に来ちゃって」 佐々木はそう言ってにこっと笑った。 そんな風に言われたら、罪悪感でいっぱいになる。

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