89 / 164
トライアングル4
「佐々木さん、すみません、俺、あの、」
拓斗がもごもごと言いかけると、佐々木は自分の口に人差し指をあてて
「ストップ。いいよ。その先はまだ聞かない」
拓斗は力なく口を噤んだ。
自分でもどう言っていいのか分からない。
佐々木のこういう好意が、どの程度本気なのかまだ測りかねていた。
自分には好きな人がいて、多分付き合っていると思うから、気持ちには応えられない。
きちんと言うべきだとは思うのだが、そんなに重く捉えるなとかわされたら、自意識過剰過ぎて恥ずかしい。
そもそも、今、自分が修平と付き合っていることすら、自意識過剰な思い込みかもしれないのだ。
「じゃあな、拓斗。ちゃんと食事しろよ」
佐々木は爽やかな笑顔でそう言うと、玄関に向かった。
その時、ピンポーンっとチャイムが鳴った。
心臓がドキッと跳ねる。
……まさかこのタイミングで、修平が……?
佐々木はちょっと躊躇してから、ドアをガチャリと開けた。止めようと駆け出したが、間に合わない。
ドアが大きく開き、思った通り、そこには修平がいた。何か言おうと口を開きかけたまま、ゆっくりと佐々木とこちらを見比べている。
……うわ。最悪だ……。
絶望感に膝の力がカクンっと抜けて、床にヘタリ込みそうだった。
佐々木はチラッとこちらを振り返ってから、修平の方を向いた。
修平も佐々木と見つめ合っている。
恐らくは数秒ぐらいの2人の沈黙が、ものすごく長く感じた。
「おはよう、小川くん」
先に沈黙を破ったのは佐々木の方だった。修平はチラッとこちらに視線を投げてから、ニコリともせずに
「おはよう、佐々木くん」
「そうか。今日の先約って君だったんだな」
「先約?あんたの方が先に来たようだけど」
答える修平の声が、氷のように冷たい。
冷や汗が出る。
「うん。出掛ける途中で寄ったんだ。拓斗に朝ごはんを届けにね」
対する佐々木の声音は朗らかだが、言葉に棘がある……ような気がする。
「朝ごはん……?あんた、デリバリーサービスか?」
拓斗は縋るような気持ちで修平の顔を見つめた。間に入って何か言う勇気は…ない。
「拓斗の身体が心配でね。じゃ、またな、拓斗」
佐々木は意に介した様子もなく、振り返ってにこっと笑うと、修平を押し退けるようにして出て行った。
去って行く佐々木を目で追っていた修平が、ゆっくりとこちらを向く。
ともだちにシェアしよう!