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トライアングル6
そのまま甘く深くなるかと思われたキスは、あっさりと解かれた。目を開いてじっと見つめると、修平は苦笑して
「モノ欲しげな顔、しない。まずは奥の部屋で座らせて?」
「あ……うん、」
そんな顔をしていたのだろうか。恥ずかしくて拓斗は目を伏せた。
部屋に入ると、さっきまで佐々木が座っていたのが丸わかりな中央の凹んだクッションが目に入り、拓斗は慌ててそれを拾い上げた。
「片付けるから、ベッドに座ってて」
食べかけのサンドイッチも急いで紙で包もうとすると、修平が腕を掴んできて
「まだ食べ終わってないんだろ?いいから食べてしまいな。勿体ないよ」
「あ……うん……」
「それ、駅前のパン屋のだろ。俺も何度か食べたことがある」
「野菜が美味しく食べられるって、」
「あなた、野菜苦手だからな。佐々木くん、本気で君を口説きたいみたいだね。胃袋を掴みにきてる」
肩を押されて拓斗はさっきの場所に座ったが、修平の目の前で食べる気力はなかった。食欲なんか遠の昔に吹き飛んでいる。
「そうなのかな…。あの人、単に世話焼きなだけで、別にそんな、」
「いくら後輩の面倒見が良くても、休みの日にわざわざ回り道して朝飯を買ってきたりはしないだろ。さっき、アパートの前に停まってたのは彼の車でしょ。あの店って駐車場に車を停めるの、結構大変だからね」
拓斗は反論を諦めて、残りのサンドイッチをもそもそと食べ始めた。
修平の言う通りなのだ。
休みの日にわざわざ、こんな手間のかかる差し入れを持ってアパートまで訪ねてくれる。
それはもう、面倒見のいい会社の先輩という範疇から逸脱している。
修平と対峙した時も、口調は明るく柔らかだったが、「拓斗」と何度も呼び名を強調しているように聞こえた。
「修平と会ってるの……佐々木さんに知られた。ごめんなさい……」
喉が妙につかえて、ジュースをストローですする。早く食べ終わりたいのに、なかなか喉を通っていかない。
修平は、さっき佐々木と鉢合わせしたことを案外怒っていないようだが、そもそも、自分とプライベートな付き合いがあることを、職場では秘密にしていたはずだ。
「知られてもいいよ。今日は休みだし、ここは会社じゃない」
ぽそっと呟く修平の言葉が意外で、拓斗は顔をあげてまじまじと見つめてしまった。
「どうした?そんな変な顔して」
「え……だって修平。会社の人に知られるの、嫌なんだと思ってた」
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