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トライアングル17

「やっぱりそうか。声をかけても、あなた全然目を覚まさないから。キスしたらしがみついてきた。だからつい、あなたに触れたくなった」 「そう……なんだ……」 覚えていない。でも、キスされた感触は唇に残っていた気がする。 「それにあなた、街中の路地裏で、とか、電車で、とか、見られそうな場所で触られるの、好きでしょ?」 「っ……」 拓斗は反論しようとして、口をもごもごさせたが、何も言えなかった。 否定は出来ない。恥ずかしいのに逆にすごく感じてしまう、という自覚はある。 「あなた、そういうの喜ぶと思ってたけど……違った?」 「……違わない」 少し不貞腐れた声でそう言うと、修平はくすくす笑い出して 「そこは一応否定するところだろ。あなたってほんと、……可愛いな」 修平の手が伸びてきて、指先で唇に触れる。その触り方が優しくてドキドキした。こちらをちらっと見る眼差しもすごく柔らかい。 ……怒って……ないんだ。 ホっとして、全身から力が抜けそうだった。 修平の機嫌は悪くない。 現金なもので、急に気持ちが軽くなった。 「ねえ、修平。弟さんって……どんな人?」 「どんな……。随分漠然とした質問だな、それ」 修平に苦笑されて、拓斗は首を竦め 「話しやすい…人?俺、初対面、わりと苦手だから」 「ああ。人あたりはいい。俺なんかよりずっと。社交的な方だな。というより人懐っこいかな」 拓斗はホッと胸を撫で下ろした。それならきっと、そんなに緊張しないで済む。 「もうすぐ県境だ。あいつの家、山形でも宮城寄りだからね。あと10分ぐらいで着く」 拓斗は後部座席のキャリーケースを見た。窓から見える翡翠は、すっかり慣れてしまったのか、大人しく丸まって目を閉じている。 うちに来たばかりの時も、好奇心いっぱいに部屋中をうろうろしていたが、やがて居心地のいい場所を見つけてすぐに寛ぎ始めたのだ。 翡翠は環境に順応しやすいらしい。この分なら修平の弟に預けて帰っても大丈夫だろう。 目的地に近づくにつれ、そわそわと落ち着かない気分になっているのは、むしろ自分の方だった。 「もうすぐ着くから、いちおう、先に断っておくけど」 「え?」 修平の妙に改まった口調に、ちょっとびっくりして彼を見ると 「紘海。あなたのこと、すごく気に入っててね。前から1度、ゆっくり会わせろってうるさかったんだ。きっとかなり懐かれるから、覚悟してて」 「え……」

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