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トライアングル20

「お。可愛いなぁ。その子が翡翠ちゃんか」 仕切りの奥からトレーを持って戻って来た紘海が、テーブルにトレーを置いて近づいてくる。 翡翠と睨めっこしていた拓斗は、紘海の方に向けて抱き直した。 「あー。はい。この子です。預かっていただきたいのは」 「ふーん。まだ生後半年過ぎたぐらいかな?トイレの躾はしてあるんだよね」 「はい。元々、誰かの飼い猫だったのかな。俺のとこに来た時は、すぐに決まった場所で出来るようになったので」 紘海はにこにこしながら頷くと、腰を屈めて翡翠の顔を覗き込んだ。 「こんにちわ、翡翠ちゃん。美猫さんだね」 「なーぅー」 翡翠はちょっと警戒した様子で小さく鳴いて、くんくんと鼻を蠢かせている。紘海はその場にしゃがみ込むと、翡翠の頭を優しく撫でた。 「美人だし賢そうな子だなぁ。大丈夫、怖くないよ。今日から5日間、君と一緒に過ごすんだ。よろしくね」 「にゃーう」 翡翠は近づいてきた紘海に顔を寄せてくんくんと匂いを嗅ぎ、ぺろっと鼻の頭を舐めた。 「大丈夫そうですか?」 「うん。僕の方は心配ないよ。動物の扱いは慣れてるしね。翡翠ちゃんもこの分だとすぐに慣れてくれそうだ」 紘海は眼鏡の奥の目をきゅっと細めて笑うと、テーブルの方に向いた。 「おまえ、今は何も飼ってないのか?」 「うーん。大学の時の友人に頼まれて、こないだまで猫を預かってたけどね。自分では飼わないかな。まだこの先どうなるかわかんないから」 修平は紘海からマグカップを受け取ると、首を竦めて 「ここ、借りられるのはいつまでなんだ?」 「それが分かんないんだよ。先輩は3年ぐらいはこっちに戻って来られないって言ってたけどね。あ、拓斗くん、君のはこっち。砂糖とミルクはここにあるからね」 紘海に、修平とは色違いのマグカップを差し出されて、拓斗は翡翠をそっと床に下ろした。 「あ。ありがとうございます」 「どういたしまして」 にこっと微笑む紘海に、ドギマギしながらマグカップを受け取る。 「市街地でもないのにこんなコアな店やってても、客なんか来ないだろ」 「うーん。それがそうでもないんだよね。SNSとかネットで情報やり取り出来るでしょ。意外と好評で、県外からもわざわざ車で来てくれるんだ」 「ふーん。おまえみたいな変人やモノ好きなやつって、多いんだな」 「うん。僕なんかまだまだ。もっと変わった趣味の人っていっぱいいるからね」 修平のかなり辛辣な言葉を、紘海は飄々と受け流している。 拓斗はマグカップを両手で抱えてコーヒーを啜りながら、目だけ動かして2人のやり取りをきょときょとと見守っていた。

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