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トライアングル21

「ところで……昼飯って食べてきた?」 紘海の何気ないひと言に、拓斗は飲んだコーヒーがむせそうになって危うくゴクリと飲み下すと、カップを顔の前に持ち上げたまま、チロ…っと修平の顔を盗み見た。 本当は、ここに来る前に蕎麦屋に寄って板そばを食べる予定だったのだ。充分に間に合う時間に向こうを出ている。でも、途中で余計な寄り道をしていたせいで、そんな余裕はなくなってしまった。 問題は、その寄り道の理由だ。 思い出すと、頬がカーッと熱くなる。 修平がちらっとこちらを見た。慌てて目を逸らしながら、内心ドキドキしていた。 ……ま、まさか……あのこと言わないよね? 「翡翠が……途中でちょっと辛そうになったからな。車停めて多めに休憩時間入れたんだ。蕎麦屋に寄って板そば食べるつもりだったけどな」 「ああ。じゃあ昼飯まだなの?ちょうど良かった。僕も寝坊して朝遅く食べたから、昼はまだなんだ。板そばって、菜乃瀬でいいの?」 何を言うかとビクビクしていた拓斗は、そっと胸を撫で下ろした。 「ああ。菜乃瀬に行くつもりだった」 「じゃあ、一緒に行こう。この時間ならちょうど空いてるよ」 「拓斗。行くか?」 2人に同時に見つめられて、拓斗はドギマギしながら、足元でじゃれている翡翠を見つめた。 「うん……でも……翡翠、まだここ来たばかりだし、1人で置いてくのは…ちょっと。あ、俺、ここに残るんで、2人で行って来てください」 拓斗の言葉に2人は顔を合わせてから翡翠を見下ろす。 「そっかぁ。そうだね。まだ1人で置いてくのは無理だなぁ」 「なら出前にすればいい。菜乃瀬じゃちょっと遠いから……この辺だと…」 「あー。じゃあ僕がいつも頼む店にする?ちょっと待ってね。小さい店だから、今日は出前出来るか、電話で聞いてみるから」 紘海はそう言って身軽に立ち上がり、また奥の仕切りの向こうに姿を消した。 「修平。悪いよ。菜乃瀬って店、行きたかったんでしょ?2人とも」 拓斗が小声で修平に言うと、修平は首を竦めて 「あなた1人置いて、あいつと食いに行ってどうする。翡翠もようやく広い所に出られたんだし、みんなでここで食った方がいい」 「うん……ごめんね」 修平は苦笑して 「あなた、変なことに気を遣いすぎ。紘海に付け入られるよ。気をつけた方がいい」

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