106 / 164
トライアングル21
「ところで……昼飯って食べてきた?」
紘海の何気ないひと言に、拓斗は飲んだコーヒーがむせそうになって危うくゴクリと飲み下すと、カップを顔の前に持ち上げたまま、チロ…っと修平の顔を盗み見た。
本当は、ここに来る前に蕎麦屋に寄って板そばを食べる予定だったのだ。充分に間に合う時間に向こうを出ている。でも、途中で余計な寄り道をしていたせいで、そんな余裕はなくなってしまった。
問題は、その寄り道の理由だ。
思い出すと、頬がカーッと熱くなる。
修平がちらっとこちらを見た。慌てて目を逸らしながら、内心ドキドキしていた。
……ま、まさか……あのこと言わないよね?
「翡翠が……途中でちょっと辛そうになったからな。車停めて多めに休憩時間入れたんだ。蕎麦屋に寄って板そば食べるつもりだったけどな」
「ああ。じゃあ昼飯まだなの?ちょうど良かった。僕も寝坊して朝遅く食べたから、昼はまだなんだ。板そばって、菜乃瀬でいいの?」
何を言うかとビクビクしていた拓斗は、そっと胸を撫で下ろした。
「ああ。菜乃瀬に行くつもりだった」
「じゃあ、一緒に行こう。この時間ならちょうど空いてるよ」
「拓斗。行くか?」
2人に同時に見つめられて、拓斗はドギマギしながら、足元でじゃれている翡翠を見つめた。
「うん……でも……翡翠、まだここ来たばかりだし、1人で置いてくのは…ちょっと。あ、俺、ここに残るんで、2人で行って来てください」
拓斗の言葉に2人は顔を合わせてから翡翠を見下ろす。
「そっかぁ。そうだね。まだ1人で置いてくのは無理だなぁ」
「なら出前にすればいい。菜乃瀬じゃちょっと遠いから……この辺だと…」
「あー。じゃあ僕がいつも頼む店にする?ちょっと待ってね。小さい店だから、今日は出前出来るか、電話で聞いてみるから」
紘海はそう言って身軽に立ち上がり、また奥の仕切りの向こうに姿を消した。
「修平。悪いよ。菜乃瀬って店、行きたかったんでしょ?2人とも」
拓斗が小声で修平に言うと、修平は首を竦めて
「あなた1人置いて、あいつと食いに行ってどうする。翡翠もようやく広い所に出られたんだし、みんなでここで食った方がいい」
「うん……ごめんね」
修平は苦笑して
「あなた、変なことに気を遣いすぎ。紘海に付け入られるよ。気をつけた方がいい」
ともだちにシェアしよう!