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トライアングル22
「出前、大丈夫だって。これ、メニューね。……って言ってもそんなに種類ないんだけど」
電話をいったん切って、紘海が出前用のチラシを持って戻ってきた。受け取って覗き込むと、たしかに「板そば」1人前、1.5人前、2人前の他には、サイドメニューに「鰊の味噌煮」「季節の野菜の盛り合わせ」とあるだけだ。
「うわぁ…シンプル」
「ここの親父さんが奥さんと2人でやってる小さい店なんだよ。その日出す分のそばを打って全部出たら営業終了。蕎麦だけじゃ物足りないかな?サイドメニューの2品も注文してみようか」
横から覗き込んでいる修平が
「俺は1.5人前」
ぼそっと呟く。拓斗はお腹を押さえて首を傾げた。お腹は空いているが、熱っぽかったせいか、すごく食欲がある感じでもない。
「あ……じゃあ、俺は1人前で」
「了解。じゃあ注文してくるね」
紘海はにこっと笑うと、また奥に消えた。
不意に手が伸びてきておでこに触れる。びっくりして修平の方を見ると
「熱、ない?あなた、まだ赤い顔してる」
「あ、だ、大丈夫。もう、怠くないし」
不意打ちに逆に頬が熱くなる。修平はあまり納得していない様子で
「蕎麦、食べたら、少し2階で休んできたらいい」
「ううん。本当に、大丈夫」
拓斗は手の甲で頬を押さえて、修平から目を逸らした。
出前の蕎麦が届くと、3人でテーブルを囲んで食べた。独特の木箱に薄めに盛り付けられた蕎麦は、箸でつまみ上げるとどっしりと重くて、汁にくぐらせ啜ると蕎麦のいい香りがした。そして噛みごたえがすごい。普段食べている蕎麦とは別物の、弾力のある蕎麦なのだ。
「板そば、初めて?どう、味は」
紘海に横から覗き込まれ、拓斗はちょっとドキドキしながら口の中の物をゴクンッと飲み込むと
「すごい香りと噛みごたえ。こんなしっかりした蕎麦、初めてです」
「ふふ。拓斗くんって素直で可愛いな。すごく美味しそうに食べるよね」
それほど歳の違わない紘海に面と向かって可愛いと言われて、拓斗は慌てて目を逸らした。
……もう……そんなじーっと見られたら俺、緊張しちゃうんだけど。
修平と紘海は見た目が似ていないだけでなく、性格も本当に真逆だ。
……2人、足して2で割ったらちょうどいいのに。
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