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トライアングル23

「ね。ひとつ質問してもいい?」 食べ終えた蕎麦の器をさっと洗って玄関の外に置くと、紘海は戻って来て椅子に腰をおろした。テーブルに頬杖をつき、こちらをじっと見て呟く。そのストレート過ぎる眼差しに、拓斗はドギマギして微妙に目を逸らし 「あ……はい、何ですか?」 「兄貴の……どこが好き?」 拓斗は目を大きく見開き、紘海の顔をまじまじと見つめてしまった。 ビックリするくらいストレートな質問だった。一瞬、自分の耳を疑った。 「えっ。……あの、」 自分と修平が付き合っていたことを、紘海は知っている。それは、修平が話したのだろう。別に知っていても構わないのだ。修平が嫌じゃないのなら。 ただ、そんな直球な質問をされても、どう答えていいか分からない。修平がすぐ傍にいるのに……。 拓斗は思わず、チラッと修平を見た。 修平は素知らぬ顔をして、食後のコーヒーを啜っている。助け舟を出してくれる気は…ないらしい。 「どこが……って」 「顔?身体?……まさか、性格?」 紘海は真剣な表情で、少し身を乗り出す。 どうしてそこに、まさかって言葉がつくのだ。 拓斗はますます困惑して、必死に言葉を探した。 「付き合って1年ぐらいだっけ?兄貴の性格、流石に気づいてるでしょ?かなり悪いよ。俺なら絶対に好きにならないけどな」 「や。……あー……えっと、」 修平が聞いているのに、本当に何を言い出すのだろう、この人は。 「大丈夫だ。紘海。俺もおまえを恋人にする気ないからな」 修平は淡々とした口調で答えた。紘海もまったく気にした様子はなく 「ふーん。別れたって聞いて、やっぱりなーって思ってたのにな。より、戻したんだ?拓斗。君、綺麗な顔だし性格もすごく良さそうだけど、男見る目がなさすぎだなぁ」 「そのセリフ、おまえが言うな。おまえこそ、女を見る目がなさすぎだ」 表情も変えずに鋭い切り返しをする修平に、紘海はへらっと笑ってみせた。 「あはは~。それは言えてる」 拓斗は2人の会話に混ざるのを早々に諦めた。 こんなやり取りに割って入れるはずがない。 ……男同士の兄弟って……みんなこんな感じなのかな。言うことが容赦なさすぎるんだけど…。 ハラハラしながら聞いていたが、修平は機嫌を悪くした様子がない。自分には、とてもじゃないが、修平にあんな口をきく勇気はない。 ズバズバと思ったことを言える紘海が、ちょっと羨ましかった。

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